音楽におけるボーカルの有無と作業効率の関係 [東京情報大学] [西村ゼミ卒業論文概要集] [年度ごとの一覧]
2024年度西村ゼミ卒業論文
音楽におけるボーカルの有無と作業効率の関係

先行研究では「楽曲の印象」に着目し、作業の認知的負荷の高さによって分類した2つの実験を、5種類の楽曲を用いて行った。1つ目のタイピング実験では、BGMが作業効率に与える影響はほとんど見られなかった。2つ目の実験である、認知的負荷が低いと考えられるトランプ作業を用いた場合でも、BGMの影響は全体的にほとんど見られなかった。これらの結果から、実験を重ねるごとに作業効率が向上したのは、BGMの影響ではなく、実験への慣れが主な要因と考えられた。

さらに、先行研究で検討された「楽曲の印象」では作業効率に変化が見られなかったため、認知的負荷には他の要因が関与している可能性が示唆された。本研究では、「ボーカルパートの有無」に着目し、その影響を検証することとした。ボーカルパートの有無の効果を明らかにできれば、YouTubeなどに投稿されている「作業用BGM」の再定義を含む、さまざまな場面での活用が期待できる。

今回の実験では、ボーカルパートのある楽曲として日本語の「カリプソ」と韓国語の「アイドント」の2種類を用意し、それぞれのカラオケバージョン(ボーカルパートを省いたもの)と、音楽なしの条件を加えた計5条件で実験を行った。作業効率の指標としてブラウザゲーム「Easyタイピング」を用い、大学生12名(男性10名、女性2名)を対象にタイピング実験を実施した。

タイピング実験の結果、音楽条件を要因とした一元配置分散分析では、ミスタイプ数やミスタイプ率には有意な差が見られなかった。しかし、所要時間には有意傾向が確認され、1秒あたりの入力数において「アイドント」は「カリプソ」のカラオケバージョンよりも有意に成績が低下した。この結果から、聞き取ることが難しい言語を含む楽曲は認知的負荷を高め、作業効率に影響を与えた可能性が示唆された。

また、実験の順番を要因とした一元配置分散分析の結果、所要時間と1秒あたりの入力数に有意な差が見られた。所要時間は5回目の実験で1回目および2回目よりも有意に短くなり、1秒あたりの入力数は4回目で1回目を上回り、5回目では1回目および2回目を有意に上回った。このことから、ミスタイプ数とミスタイプ率にも有意差は見られなかったものの、慣れによる影響が作業効率の改善に寄与したと考えられる。

慣れが音楽条件ごとの成績に影響を生じていたかを調べるため、被験者ごとの楽曲条件と試行回数の組み合わせ、さらにその積を集計した。その結果は、1秒あたりの入力数の多さの順序と一致していた。これにより、実験を重ねるにつれて向上したタイピング成績が、音楽条件ごとに反映された可能性が示唆された。本研究では、慣れの影響を抑えるため、音楽条件をランダムに設定したが、それでも偏りが発生する場合があることが確認された。したがって、実験の順番管理はより慎重に行う必要がある。