ASMR(Autonomous Sensory Meridian Response)とは主に聴覚や視覚への刺激によって生じる、ゾクゾク、ゾワゾワといった感覚を感じる現象のことである。斎藤が行った先行研究では聴覚で聴く媒体に着目し、スピーカーとイヤホンそれぞれでASMR動画の音のみを聴取して受ける印象を印象評価語ごとに比較した。その結果、「こそばゆい」と「未体験の感覚がある」印象においてスピーカーよりも、イヤホンで音を聴いた方がASMRの録音方式やイヤホンの特性といった要因で、ASMRを引き起こす可能性が高いことが報告された。この研究では視覚から受ける情報は考慮されていなかった。そこで人が受ける刺激の知覚の様相の違いで、ASMR動画の印象に変化はあるのか疑問に思い、研究を始めるに至った。本研究の目的は、映像のあるASMR音源を聴取した場合と、映像の無いASMR音源を聴取した場合で、受ける印象に違いが出るのかを明らかにすることである。音響ゼミ所属の情報大生11人を対象に、YouTube上で無料公開されているASMR動画から抽出した映像のある音源を視聴してもらう実験と、そのファイルから音のみを抽出した音のみの音源を聴取してもらう実験を2回実施した。このとき被験者を、映像と音→音から聴取する、音→映像と音から聴取するの2グループに分けてそれぞれ聴取してもらい、2週間後の2回目の実験の際は、その順序を逆にして聴取してもらった。そして聴取した音源を形容詞を用いて12項目作成した評価シートに印象の度合いを評価してもらった。結果、心地良かった、きれい、やわらかい、自然の4つに対する評価では、映像のある音源の方が受ける印象が強い傾向にあった一方、未体験の感覚があったに対する評価では、音のみの音源の方が受ける印象が強い傾向にあることが分かった。これらの結果から映像のある音源の方が受ける印象が強い傾向にあった、心地良かった、きれい、やわらかい、自然4つの形容詞に関しては、単純に受ける刺激の量が増え、視覚情報が聴覚情報を後押ししたためであると考えた。そして音のみの音源の方が受ける印象が強い傾向にあった「未体験の感覚があった」の印象に関しては、視覚からの情報を遮ることで、未体験の感覚という印象を強めているのではないかと考えた。この説に関して映像と音の提示順序が影響したのかどうかも検証したが、音を聴取する実験を行った後に、映像を視聴してもらう実験を行った条件で、再現性のある評価を行った被験者が少なく、今回得たデータのみでは判断はできなかった。この説は十分な被験者を揃えられなかったとして今後の検討事項としたい。