先行研究においては、音楽が集中力に与える影響について、議論が行われてきた。楽曲や無音状態が作業効率に及ぼす効果を調査した研究では、音楽が集中力や作業効率を高める可能性や、逆に妨げる要因になる可能性が指摘されている。しかしながら、これらの研究では主観的集中度が注目される一方で、図形を主としたテストを用いた客観的な作業効率との関連性については十分な検討がされていなかった。こうした背景を踏まえ、本研究では、音楽が早押しゲームに必要とされる集中力にどのような影響を及ぼすのかを調査することを目的とした。さらに、主観的な音楽の印象と主観的集中度を評価させ、早押しゲームのタイムを記録して、客観的なデータとの関係性を明らかにすることを目指した。
本研究の実験では、東京情報大学在籍の学生10名(男性8名、女性2名)を対象に、「Official髭男dism」の「I LOVE...」、被験者が選択した好みの楽曲、無音状態の3つの条件下で早押しゲームを実施した。各被験者は、ランダムな順序・各音楽条件下で早押しゲームを3回ずつ行い、ゲームのタイムを測定した。また、ゲーム終了後には、楽曲に対する印象や主観的集中度について印象評価フォームで回答を求めた。ゲームへの慣れによるタイムの変化を避ける為、全9回の練習を行った。また、実験の順序をランダム化することで、実験の進行による音楽条件に対するタイムへの影響を最小限に抑える工夫を施した。これにより、音楽条件が集中力に与える純粋な影響を明らかにすることを目指した。
本研究の目的である「音楽を聴きながら作業を行う際に、集中力にどのような影響があるのか」を検証した結果、音楽条件が主観的集中度に与える影響が明らかになった。特に被験者が好む曲を聴きながら行う場合、早押しゲームの平均タイムが短くなる傾向が見られ、音楽の好みが集中力を向上させる可能性が示唆された。一方、無音や「Official髭男dism」の「I LOVE...」を聴く条件では、好む曲に比べてタイムが長くなる傾向が見られた。
また、分散分析の結果では、音楽条件がタイムに統計的に有意な影響を及ぼす一方で、繰り返しの効果や音楽条件との相互作用効果は、有意ではなかった。さらに、主観的集中度に関する調査では、1回目より2回目の方が集中できたと感じた被験者が増加しており、音楽条件2では特に集中できたと報告する被験者の数が多い傾向が見られた。
以上の結果から、音楽の種類や個々の音楽の好みが主観的集中力に大きく関与していることが示唆された。