ギター音の歪みや旋律が旋律の明るさに与える影響
音楽を聴いていると明るい、暗いという印象を感じることがある。楽曲に対してどのような印象を持つかは聴き手の主観に過ぎないが、ある程度の要因はある。それは、長調・短調、テンポ、使用されている音域等が挙げられる。
過去の実験では、「スペクトル重心」により、音色や旋律の明るさを定量的に表すことができた。また、先行研究ではギターの歪みは旋律の明るさのどのように影響するかを調べるため、研究が行われた。この実験では、被験者によって明るさの要因が異なるという結果になった。先行研究では、単純な上昇音階で実験が行われていたため、実際の音楽で用いられるような旋律では明るさをどう感じるのかが明らかではない。
現代音楽では、エレキギターが頻繁に使用されている。この研究は、実際に楽曲で使用されるようなメロディを用い、ギターの音色の歪みと旋律の調性が旋律の明るさに影響を与えるのかを調査することを目的に行った研究である。
実験では、8つの旋律を使用し実験を行った。まず、長音階の上昇傾向にあるメロディを作成し、短音階を使用したメロディに編曲した。この2種類の音列を、逆方向から演奏し下降傾向になるような音源を作成した。これらの音源と、それらに歪みを掛けた音の計8つである。これらの音を、楽器経験者5人、非楽器経験者5人に聴かせ、感じ取った「旋律の明るさ」を評定してもらった。実験では2つの音を組み合わせたものをランダムに被験者に聴かせ、前後の音を入れ替えたものは別のものと見なして評価するシェッフェの一対比較法 (浦の変法)を用いた。この実験では組み合わせの数は56通りになる。被験者の回答に信頼性があるかどうか確かめるために、一人につき2回ずつ実験を行った。実験を2回行った後、シェッフェの一対比較法の分散分析を行った。その結果、繰り返し要因に有意差がある場合は1回2回の判断が異なっていると言える。このため、有意差が見られた被験者は、3回目の実験を行ってもらい2回目と3回目の実験結果で再度分析を実行した。その結果として1、2回目で有意差がない人が10人中7名となり3名は2、3回目で繰り返し要因に有意差が無くなった。つまり、全ての被験者の回答2回分に信頼性があることが分かる。
実験の結果、原音よりも歪みをかけた音源に明るさを感じている人が4人、長音階で明るさを感じている人3人いた。さらに、その両方の要因で明るさを感じている人が2人、明るさの差を感じていない人が1人となった。また、楽器経験者は長音階で明るさを判断している人が多いことがわかった。また本実験は、実際の音楽のようなメロディを用いたが、メロディの上昇下降で明るさの差を感じている人は1人だったため、旋律の上昇下降はあまり明るさとは関係ないものと考えられる。