ASMR(Autonomous Sensory Meridian Response,自律感覚絶頂反応)とは、視覚、聴覚への刺激によって生じるゾワゾワするなどといった感覚のことを指す。内田らの研究では、ASMRは脳活動や気分状態に影響を及ぼすと報告されている。そして、この文献での実験はすべてイヤホンを使用している。では、イヤホンではなくスピーカーで聴取した場合どうなるのか。本研究の目的は、ASMRを引き起こす要因となる音をイヤホンで聴取した時と、スピーカーで聴取した時の違いを明らかにすることである。映像・音響研究室に所属している10人の学生を対象に、YouTubeに無料公開されているASMR動画から抽出した4種類の音を聴取してもらった。被験者の半数はイヤホンから始めて交互に4回、もう半数はスピーカーから始めて交互に4回聴取してもらい、形容詞を用いて19項目作成した評価シートに印象の度合いを評価してもらった。結果、形容詞「こそばゆい」と「未体験の感覚がある」の2つの形容詞が、スピーカー聴取の印象と、イヤホン聴取の印象が多く異なっており、イヤホンの方が印象の度合いが比較的高い傾向があることが分かった。その他の形容詞は音の種類、被験者によって評価にばらつきが多く、2つの聴取法にあまり差異は見られなかった。これらの結果から、形容詞がASMRの感覚と離れていると印象の度合いにばらつきが出てしまい、二つの聴取法の違いが分かりづらくなってしまう可能性がある。そして、イヤホンの「こそばゆい」と「未体験の感覚がある」印象の度合いが高い傾向にあったのは、ASMR動画から抽出した音がバイノーラル録音という方式をとっていて、音を立体的に聴取できることが理由と考えられる。また、イヤホンで聴くことにより、暗騒音の影響が少ないことによって細かな音まで聞こえている可能性がある。そして、内田らの研究で取り上げられたシャワーの音や今回の綿棒の音のような、周波数の高い音が印象の度合いが高い可能性がある。これらの要因がASMRを引き起こしている可能性が高いという考えに至った。