音楽のテンポが音楽と映像を対比させた映像作品の印象に及ぼす効果 [東京情報大学] [西村ゼミ卒業論文概要集] [年度ごとの一覧]
2021年度西村ゼミ卒業論文
音楽のテンポが音楽と映像を対比させた映像作品の印象に及ぼす効果

黒澤明の作品である「野良犬」には、音楽と映像を対比させた「音と画の対位法」と呼ばれている手法が使用されている。これまでの研究では、対位法が使用されている部分では、映像とは反対の印象を与えるような音楽が使われており、まとまりのない印象を与えつつも複雑さや面白さの印象が高く、総合的な良さは対位法が用いられている場合の方が音楽と映像が調和している場合よりも高くなっていることが明らかになっている。

本論文では、「野良犬」の中の対位法が使用されている部分の音楽のテンポが与える印象の効果を明らかにするため、印象の評定実験を行った。

実験には、映像の内容は変えず音楽のテンポだけが異なっているA〜Eの5本の映像を使用し、映像内には音楽と映像が調和している部分が1箇所、対位法が用いられている部分が3箇所含まれている。対位法の場面に使用されている音楽は、「ソナチネ」と「蝶々」の二曲であり、実際に「野良犬」で使用されているテンポは、ソナチネのテンポが92、蝶々が100となっている。Aに使用されている音楽のテンポは、ソナチネが62、蝶々が50、Bにはソナチネが77、蝶々が75である。Cはソナチネが92、蝶々が100となっており、これは実際に使用されているテンポである。Dはソナチネが107、蝶々が125、Eにはソナチネが122、蝶々が150のテンポが使用されている。尚、調和している部分の音楽のテンポは変えておらず、すべて同じテンポで実験を行った。

対位法が使われているシーンでも、その音楽のテンポを遅くすることにより、まとまりの良さや違和感の無い印象を与えられることが分かった。反対に、テンポを速くすることによっても印象は変わり、記憶に残りユニークさが強くなる分、まとまりは良くならず違和感や物足りなさなど、印象に偏りが出てしまう場合があることも分かった。

また、実際に使用されているテンポにおいても、テンポが一番遅いときの印象と同等か、有意ではないがそれ以上の印象を与えられていることが分かり、これは、「野良犬」に使用されている対位法において、陽気な音楽でもテンポを遅くすることにより、ユニークさを出しつつも違和感のない映像を意図的に作っているのではないか、という考察をすることができた。