先行研究では、音楽を聴いて懐かしいという感情が喚起されると、自伝的記憶が想起されるという結果を得ていた。しかし、この研究では、一般的に懐かしいと思われる曲を選んで実験を行っていた。そのため、実際に自身がよく聴いていた曲を聴取することで、より多くの自伝的記憶が想起されるのではないと考えた。この仮説のもと、本研究を行うに至った。
本研究では、被験者自身が、聴取経験のある曲の聴取頻度と、音楽を聴取して想起する自伝的記憶の想起量や、想起の詳細さの関係について明らかにすることを目的とした。また、音楽の印象と、その音楽を聴取して想起する自伝的記憶の印象に関係があるかを明らかにすることも目的とした。
今回は、音楽を聴取して、想起したことについて回答させる2つの実験を行い、分析をした。実験@では、音楽の印象と、その音楽を聴取して想起したことの印象の関係を明らかにする実験を行った。実験Aでは、以前に聴取経験のある音楽の聴取頻度が高かった曲とそうでなかった曲について、その音楽を聴いて想起する自伝的記憶の想起量や、想起の詳細さの関係を比較する実験を行った。
2つの実験の結果から、以前被験者がよく聴いていた音楽は、より多く、より詳細な自伝的記憶の想起を促した。また、音楽を聴取して想起した自伝的記憶の印象は、その音楽の印象と似ていることが示唆された。