先行研究では、クラシックギター奏者へ向けて、演奏時に音色を変化させる手段として右指の弾弦位置を変える、左指のポジション選択により弾く位置を変える(異弦同音)という2つの項目について音色の印象変化の関係性を調査していた。3つの弦、5つの弾弦位置の違いの計15種類の音刺激を用意した。音色の比較に一対比較法を用い、2つの音色の類似度を7段階で評価していた。その結果、サウンドホール寄りで弾くと高音成分の弱い暗めの柔らかい音色。ブリッジ寄りで弾くと高音成分が強くなり明るく固い音色になり音色に違いがあることがわかった。各弦の弾弦位置を同じにした場合に、1弦よりも柔らかい音を奏でたい時には弾く弦を2弦、3弦に変えるべきである。弾く弦と弾弦位置の違いで固い、柔らかい音、弦位置に変化をつけることが出来るという結果であった。そこで本研究ではエレキギターのストラトキャスターを使用し、ピックアップの位置の違いと異弦同音、弾弦位置の違いによる音色の違いの関係性を調査する同様の実験を行った。
実験には3つのピックアップ(リア、センター、フロント)、弾弦位置2か所(ブリッジ側、ネック側)、弦2種類(2弦、3弦)を組み合わせた12種類の音を用意し、計12種類の音を2つずつ対にしたものをすべての組み合わせ(132通り)で先行研究と同様の実験を行った。実験は日を開けて2回行い、9名に被験者として参加してもらった。
分析の結果、エレキギターの音色に最も違いを与えるのはピックアップの位置の違いであった。リア、センター、フロントの順で高音成分を多く含む音であった。センターとフロントで音色の違いはあまりなかった。同じピックアップと弾弦位置でも弾く弦の違いで音色に違いが表れ、高音成分の強い音を奏でたい時には2弦、高音成分の弱い音を奏でたい時には3弦を選択すると良い。3弦を弾いた時でもリアピックアップを選択すれば、高音成分の強い音を奏でることが出来る。先行研究では指板寄りで弾く場合とブリッジ寄りで弾く場合で音色の違いが表れたが今回は弾弦位置の違いでは音色に大きな差は無かった。これは、音刺激を録音する時に、ピックでの撥弦の強さを一定になるようにしたことが原因だと考えられる。
これらの結果により、エレキギターの音色の違いに影響が大きい要素はピックアップの違いであることが分かった。弾弦位置の違いで音色に違いはなかったが、ピッキングの強さやディストーションエフェクトをかけると弾弦位置の違いによる音色の違いが表れると考える。ハムバッカータイプのピックアップや異なる形状のエレキギター、6〜4弦の巻き弦を使用した場合には異なる結果が得られると考える。