先行研究では、「エヴァンゲリヲン新劇場版:破」から、同じ印象の映像と音楽を合わせた、典型的な音楽の用い方をしていると思われる2か所と、映像と音楽の印象が反対になる、独特な音楽の用い方していると思われる2か所を取り上げ、印象評価実験とアンケートを行った。その結果前者は、映像と音楽ともに同じ印象を持たれており、後者では、映像と音楽の印象は対比していた。しかし、抜粋した4か所の印象が明らかになっただけで、その映像が記憶に残ったかどうかまでは明らかでない。そこで、一般の人にも知られていない映像・音楽を使い、映像と音楽の印象を対比させた編集映像は、記憶に残るかどうか、について調べる研究を行った。
実験には、先行研究で使われた印象評価語の、8つの印象をそれぞれ持つ映像を「NHKライブラリー」から8個選出した。それらの印象及び反対の印象をそれぞれ持つ音楽を「RWC研究用音楽ジャンルデータベース」から16個選出した。それらの印象は「楽しい」「緊張感のある」「陽気な」「激しい」「興奮するような」「複雑な」「絶望的な」「暗い」である。音の無い映像の印象と、同じ印象を持つ音楽を合わせた編集映像8個、音の無い映像の印象と、反対の印象を持つ音楽を合わせた編集映像8個を用意した。「音無し映像」「音楽のみ」「印象が同じ編集映像」「印象が反対の編集映像」それぞれのグループ毎にランダムな順序で印象評価実験を行った。先行研究に倣い、1つの刺激の後に、印象評価実験とアンケートを実施し、さらに編集映像を視聴して記憶に残ったかどうかを回答させた。被験者は東京情報大学の学生10人で行った。
実験の結果、対比した印象を用いた編集映像が、記憶に残ると回答した人数は最高でも6人だったが、同じ印象を用いた編集映像では、最高8人の被験者が記憶に残ったと回答していた。しかし全体的に見ると、「対比した印象の編集映像」「同じ印象の編集映像」どちらを比較しても、記憶に残ったと回答している人数はあまり変わらなかった。実験で使用した音の無い映像の中で、あまり動きの無い映像を選んでしまった事や、編集映像全体の評価をするように被験者に伝えなかったことが原因かもしれない。これらの結果により、音楽の印象や映像と音楽の組み合わせによって、また被験者それぞれの感性によって、映像作品は記憶に残るのではないかと思われる。また、音のみの印象に編集映像の印象が、影響されていることが分かった。