グルーヴ感と実際のドラムの発音時刻及び音量の関連の研究は少ない。このため奥平啓太らは、プロのドラム奏者によるグルーヴ感をある演奏から、スネア、ベースドラム、ハイハットの打点時刻と音量を測定しグルーヴ感の違いを定量的に研究した。その結果、打楽器の遅れ時間がベースドラムと比較して、スネアが8 msより大きく、ハイハットが12 ms より大きければルーズというグルーヴに感じることがわかり、発音タイミングはグルーヴ感を表現するにあたり重要な一つの要素という事がわかった。しかし、そのようなわずかなタイミングの遅れを本当に人間が識別できるのか、という事は調べられていない。
そこで、メトロノームに対してハイハット、スネア、ベースドラム全てが正しいリズムのタイミングから遅れる時、ベースに対してハイハット、スネア、ベースドラム全てが正しいリズムのタイミングから遅れる時に遅れを認識できるのはどの程度の範囲であるのか、遅れの識別は楽器経験者、未経験者の間に違いはあるのかということを調べることを研究の目的とした。
正確なメトロノームのリズムに対してハイハットとスネアが遅れているプロフェッショナルの演奏を再現したとしても、著者は全く認識できなかったため、ドラムスをすべて遅らせわかりやすいものにした。音源はメトロノームに対してドラムスが64分(31ms)、128分(15ms)遅れて演奏している音源とジャストなタイミングで演奏している音源、ベースに対してドラムスが64分、128分遅れて演奏をしている音源とジャストなタイミングで演奏をしている音源を用意した。AXB法により、楽器に対してジャストのタイミングの演奏と遅れている演奏のリズムの違いを識別できるかについて調べた。被験者は、楽器経験者5名(うち2名はドラムス経験者)、未経験者7名、計13名で、実験は日を分けて3回行い各条件12回判断するようにした。
メトロノームに対してドラムスが64分音符遅れ(31ms)の演奏をしている音源で、遅れを正しく判定している被験者が3名おり、メトロノームに対してドラムスが64分音符遅れている演奏は違いがわかりやすいということがわかった。ドラムスの遅れを有意に識別できている条件がある被験者は経験者未経験者それぞれ二名ずつであり、楽器経験者、未経験者全体をそれぞれ平均したグラフにも差が見られないため、楽器経験者、未経験者の遅れの識別には差が見られなかった。