先行研究では、BGMの速さで作業の速さは変わるのか、また、作業効率に影響を与えるのかを明らかにすることを目的として、作業の認知的負荷の高さによって分けた3つの実験を行った。1つ目に、認知的負荷が高いと考えられる割り算の計算問題を行った結果、BGMのテンポによる影響はみられなかった。2つ目に、認知的負荷が中程度と考えられるタイピング入力を行った結果、テンポを上げると誤打数が増えるという影響がみられた。3つ目に、認知的負荷が低いと考えられる歩行課題を行った結果、BPM180はBGMなしよりも歩行時間が有意に速くなるという影響がみられた。しかし、先行研究は認知的負荷、テンポの違いによる結果を示しており、曲調によって結果が変わる可能性もあるので、改めて調べる必要がある。BGMの速さや曲調によって作業効率に影響を与えることができるのならば、今後、様々な場面において活用できるのではないだろうか。
本研究では、先行研究を参考にし、その研究と同じBGMで同じテンポの曲を2条件に加え、曲調の異なるBGM2つ、音楽なしの条件を用いて、BGMが作業効率に影響を与えるのか、明らかにする。
実験は作業の認知的負荷の高さによって分けたタイピング実験とトランプ実験の2つの実験を行ってもらった。実験条件は、ショパン作曲「ロッシーニの主題による変奏曲」をBPMを140と180に調整した音源、曲調の明るいシュノーケルの「波風サテライト」、曲調の暗いGreg Irwinの「What should I Tell Them」、BGMなしの5条件となる。それぞれの実験において、1人に対し5回(5条件)行い、被験者全員に両方の実験を行ってもらった。タイピング実験では、漢字かな混じりの文章を変換なしで読みをローマ字入力ですべてひらがなに直してもらい、トランプ実験ではトランプの数字とマークが順番になるように重ねて集めてもらった。実験が終わった後に、曲の印象について評価用紙に評価をしてもらった。タイピング実験は、総入力数、誤打数、誤打率の値について、トランプ実験は、トランプを集めるのにかかった時間、間違い数について、音楽条件を要因とした分散分析を行って、有意差があるか調べた。
その結果、認知的負荷が高いと考えられるタイピング実験ではBGMによる作業効率への影響はほとんどなかった。認知的負荷が低いと考えられるトランプ実験では、BGMによる作業効率への影響は、全体的にはほとんどなかった。ただし、他の被験者8人に比べて作業時間に大きいばらつきがある被験者2人のうち1人は、1回目で作業時間が極端に長かったことから、作業に慣れていなかった可能性がある。もう1人は3回目で作業時間が極端に長かったことから、BGMによる影響を受けていた可能性がある。このことからBGMによる作業効率の影響には個人差があるかもしれない。実験を重ねる度に作業効率が良くなっているのは、実験の慣れによる結果だと考えられ、BGMの影響ではないと思われる。