過去に、テンション和音はポピュラー音楽理論において、「明るい、暗い」「嬉しい、悲しい」などといった心理的印象との関係については詳しく明示されていなかった。しかし、江村ら(金沢工大)の先行研究は、和音の印象は、テンションを付与することによって変化することを明らかにした。
そこでこの研究ではテンション和音をアルペジオ奏法で聴取させてみたら心理的印象はどう変化するのか気になり、実験することにした。
Cコード、Cmコード、CM7コードそれぞれに9th、13thのテンションを付与した。C, C9, C913, Cm, Cm9, Cm913, CM7, CmM7, CM9の計9種類のピアノ音によるアルペジオを用意し、シェッフェの一対比較法による印象評定実験を実施した。評価項目は、@安定感のある-不安定な A洗練された-野暮ったい B豊かな-貧弱な C明るい-暗い、の4つあり、それぞれ7段階で評価してもらった。
結果として、(洗練された-野暮ったい)という項目において、テンションを2つ付与したとき(C913、Cm913)は洗練された印象だった。テンションなしの場合では先行研究の和音の結果ではダサい(野暮ったい)という結果であったが、今回の実験ではテンションなしのCは洗練されて聴こえるということがわかった。
今回は、先行研究のように和音ではなく、アルペジオ奏法を使ったため、9th(レ)、13th(ラ)など他のアルペジオより高音を用いたC913とCm913が洗練されて聴こえたのではないかと考えた。それに続きCも高音が「ミ」と2番目に高く、洗練されたという結果になった。つまり、アルペジオでの音階の最高音が高いほど洗練される可能性があると考えた。
今回のアルペジオでは先行研究とは異なる結果となり、和音の単音とアルペジオでは違った印象が得られるということがわかった。