和音進行が聴取者に与える影響について、科学的・心理学的な研究がされはじめたのは50年ほど前とごく最近であり、音楽理論として確立されているものが聴取者にどのような影響を与えるかが未解明な点もまだ多くある。過去に、最初に鳴らした和音の種類によって2番目の和音への印象が異なるのかという実験が行われた結果、2番目の和音の印象は最初に鳴らした和音の種類に影響され、単一で鳴らしたときの印象とは異なるという研究報告がされている。
先行研究は和音が和音に対して与える影響を分析するものだったことに対し、本研究では一つのメロディに対し複数パターンの和音進行をつけるリハーモナイゼーションを行い、和音進行の違いによって楽曲の印象がどのように異なるのか、特にメロディ単体の印象、伴奏単体の印象のどちらに強く影響を受けるのかを分析することを研究目的とした。
もともと実験に使用する曲は東京情報大学の学歌の一部であった。しかし、被験者が東京情報大学の学生であったため、学歌に対して既に何らかの印象や先入観を持っている可能性があり、実験結果に影響すると思われた。そこで、筆者が実験用にオリジナル曲を作曲し、合計2曲で実験を行った。そしてこれらの原曲をもとに、和音進行に主要三和音のみを使った単純な曲を1つ、和音進行を複雑にしたパターンを2つ、合計4パターンを作成した。被験者には、1曲につきメロディ単体、メロディ+伴奏4種類、伴奏単体4種類、合わせて9パターンをランダムに聴取してもらい、17項目両極7段階のSD法で印象評価を行ってもらった。
被験者から得られた評価を元に各パターンの全評価項目の印象の平均を算出した結果、伴奏単体やメロディ単体よりも伴奏を伴ったメロディの方が印象評価の平均値が高かった。そのため楽曲は伴奏とメロディの相乗効果で聴取者にポジティブな印象を与えていたことが分かった。また、主要三和音のみを使用したリハーモナイゼーションは、楽曲の印象を必ずしも平坦でつまらないものにするわけではないことがわかった。さらに、原曲に対しリハーモナイゼーションを行うと、伴奏を伴ったメロディは部分的にマイナスにもプラスにもなることもわかった。つまり、リハーモナイゼーションは「単に和音進行を原曲と違うものにする行為」ではなく、「聴取者が原曲に抱いていた様々な印象や先入観をリセットし、新鮮みや面白さを出す行為」であるのだ。そして、和音進行の違いにより楽曲の印象は伴奏単体、それともメロディ単体のどちらに似るかは、楽曲やパターンによって異なる結果が出たため、この研究のみで一概に言える結果は得られなかった。