先行研究では、楽曲の歌詞のみを見て想起する色彩と、楽曲を聴取して想起する色彩に相関があるか実験が行われていた。これは、歌詞と色彩と楽曲を結び付けた楽曲検索技術が実現可能かを示すために行われた実験である。例えば、青と入力すると、"海"から青色が想起されるのであれば、"海"を含む楽曲を推薦してくれる、という検索技術のことである。実験の結果、句よりも特定の単語から色彩が想起されている、つまりプリミティブワードが存在しているということがわかり、楽曲・歌詞・色彩の結びつきによる楽曲推薦のアプローチが実現可能であることを示していた。しかしその研究では、一般的に知られている楽曲を用いていたため、アーティスト情報などのなんらかの楽曲情報が、色彩を想起する際に影響している可能性が否定できない。そこで本研究では、楽曲情報を知らない歌詞付きの楽曲の場合でも同じ結果が得られるのかを調査した。
実験には、一般には知られていないRWC研究用ポピュラー音楽データベースの、日本のポピュラー音楽スタイルによる日本語歌詞である楽曲を用い、それ以外はほぼ先行研究と同じ方法をとった。歌詞のみを見て想起された色彩を答える実験(実験1)と、楽曲を聴取して想起された色彩を答える実験(実験2)の2種類を行い、この2つで想起される色彩に相関があるかを分析した。また、実際に単語から色彩が想起されているのかを調査するために、実験1では歌詞中の色を感じた箇所に○印をつけてもらった。楽曲数は20曲で、それぞれの実験に被験者が10名ずつ、合計20名に被験者として参加してもらった。
分析の結果、実験1と実験2で想起される色彩に相関があると判定された楽曲は20曲中5曲であった。先行研究では80曲を使用し、そのうち62曲に相関があると判定されているのと比べると、実験1と実験2で想起される色彩に相関があるとは明言できない結果となった。さらに本実験では、楽曲を聴取する場合よりも、歌詞のみを見る場合のほうが想起される色彩が少ないことがわかった。先行研究では、歌詞のみの場合でも多くの色彩が想起されていたが、これは歌詞だけでなく楽曲の持つアーティストの印象やCDジャケットなどの印象が影響している可能性があると考えられる。また、先行研究と同じく歌詞中の単語から色彩が想起されているかどうか調査した。その結果、歌詞から色彩を想起する際には、単語よりも句から色彩が想起されており、色彩を想起させる単語であるプリミティブワードが存在しているとは明言できないことが分かった。
これらの結果より、楽曲情報を知らない楽曲においては、先行研究で述べられていた楽曲・歌詞・色彩を結び付けた楽曲推薦は用いにくいのではないかと考えられる。