映像作品のサウンドデザインの手法が映像作品の印象に及ぼす影響 [東京情報大学] [西村ゼミ卒業論文概要集] [年度ごとの一覧]
2016年度西村ゼミ卒業論文
映像作品のサウンドデザインの手法が映像作品の印象に及ぼす影響

『サウンドデザインバイブル』という書籍の中で、映画「007/SKY FALL」のサウンドデザインが紹介されている。ヘリコプターの墜落のシーンや、壁を破壊して暴走する地下鉄シーンでは、背景音楽を用いず、効果音がメインとなることで、ダイナミックな山場を意図していると解説されている。また、橋の上で主人公ボンドが銃に撃たれ川に落下したシーンでは、落下した後、情報機関MI6のオフィスのシーンになる。窓の外では雨が降っていて、その雨音に先行して激流を流れるボンドの水音が入る。これは次のシーンの音を先行させることによって、その次のシーンを予感させる先行効果を使っている。さらに、先行効果により、激流を流れるボンドの印象を高める意図があると解説されている。

このように、デザイナーは意図を持ってサウンドデザインをしている。しかし、その意図は私たち鑑賞者に伝わっているのか。音楽を追加するなど表現を変えた映像と比較し、本研究で明らかにしていく。「007/SKY FALL」の中から、参考文献で紹介されていた効果音がメインの地下鉄暴走シーン、ヘリ墜落シーンを使用し、効果音のみの編集無の映像と、背景音楽を付けた映像のどちらがダイナミックな山場のあるシーンになるのか明らかにする。先行効果を使っているシーンでは、音を先行させている編集無の映像と、音を先行させていない編集した映像のどちらが激流を流れるボンドの印象は強くなるのか明らかにする。紹介されていなかったがMI6のビルが爆発したシーンは、爆発と同時に爆発音が聞こえる。爆発音に時間差がない編集無と時間差をつけた映像とで、迫力に違いがあるのか明らかにする。

被験者に、各シーンの編集無・有の映像の印象を評価してもらった。平均の評価値としては、効果音がメインのシーンでは、地下鉄暴走シーンは、効果音とセリフのみの映像に曲を付けた映像の方が迫力、緊迫感があるという結果となった。ヘリ墜落シーンでも、曲を付けた映像の方が、やや迫力、緊迫感、臨場感、リアリティがあるという傾向だったが、有意差はなかった。また、先行効果使用シーンでは、音を先行させている元の映像と、音を先行させていない編集した映像とでは印象の強さにあまり差がなかった。しかし、音を先行させた方が、映像の流れがスムーズに見えることがわかった。

有意差がみられなかった評価項目では、考えられる要因として、データ数の少なさと被験者ごとの評価のバラつきが考えられる。被験者ごとに絶対値の差を求め、信頼性があるデータを選出したところ、6~9人分しかデータが得られなかった。結果、有意差がみられず、データ数の少なさと評価のバラつきが原因だと考えた。

MI6爆発シーンでは、爆発音に時間差がない編集無と時間差をつけた映像とを、対にして再生した。その2つの映像の先に再生された方が、迫力がある、自然に見えるという結果が得られた。2つの映像の違いは気づきにくいため、先に流れた映像の印象が強く残ったと考えられる。爆発と同時に爆発音が聴こえることにより、迫力に違いがあるのか明らかにできなかった。