Circularity of pitch judgment (in Japanese)

無限音階


 Shepard[1]はオクターブ間隔の成分音で構成される調波複合音のピッチを 120centごとに上昇させ、無限に上昇する感覚を生じさせる音を作成した。 Shepardはこのようなピッチ感覚をもたらす要因として、それぞれの部分音の 周波数が近付く方法に複合音のピッチの動きを感じる、という近接の要因が働 いている、としている。また、このような音は、tone height(音の音色的な高 さ)を一定に保ち、tone chroma(音の調性的な高さ)の円環に沿ってピッチがオ クターブで循環することをあらわしている、と指摘している。

 一方、Burns[2]は、成分音の間隔がオクターブでない非調波複合音を用いても、 Shepard Tone と同様な知覚内容をつくり出す事ができることを示している。 つまり、オクターブの等価性や tone chroma の円環は、このような音の知覚 の説明には不必要であり、分析的な聴取態度によって聞き取る成分音のピッチ の近接の要因が重要であることを示唆している。また、このような音に慣れる ことにより、上昇し続けるピッチが途中で急に下がるように聞こえ易くなり、 その手がかりには個人差が大きいことも示している。

 西村ら[3]は、成分音のピッチに近接の要因が働かないような調波複合音でも、 ピッチが上昇し続けるように聞こえる音を作成している。このことは、物理的 には存在しない複合音の基本音の高さにも近接の要因が働くことを示している。

【参考文献】
  1. Shepard, R. N. , ``Circularity in judgments of relative pitch'', J. Acoust. Soc. Am., 36, 2346--2353, 1964.
  2. Burns, E. M. , ``Circularity in relative pitch judgments for inharmonic complex tones : The Shepard demonstration revisited, again '', Perception & Psychophysics, 30, 467--472, 1981.
  3. 西村 明、津村 尚志、中島 祥好, ``高次の倍音でつくられる複合音の ピッチの循環性について'', 聴覚研究会資料, H-94-7, 1994.

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