映像制作で音楽と映像を合わせる際、どのようなテンポの音楽を合わせると視聴者が飽きずに心地よく見ていられるだろうか?この疑問が今回の研究を行うきっかけとなった。もちろん映像作品の内容に大きく左右される問題ではある。しかし、音楽のテンポで映像が長く感じられたり、短く感じられたりするのだろうか?このような疑問が今回の研究の原点となった。この論文は、音楽のテンポの違いによって人間の体感する時間は変わるのかということについて研究し、分析したものである。
テンポが速い音楽をBGMで使用した方が、同じ映像の尺でも短く感じるのかを明確にすることを目的とし実験を行った。
映像は、再生開始時刻をランダムに選び再生するプログラムを作成し、8.5秒、9秒、9.5秒、10秒、10.5秒、11秒、11.5秒の7種類になるよう設定した。また、音楽はテンポ50、テンポ90、テンポ140の3種類を用意した。そして、被験者7名に対し、1度に2種類の映像を対にして再生し、どちらの映像の方が長く感じたか解答してもらった。この際、必ずどちらか一方には映像尺10秒とテンポ90の組み合わせ(以後、「基準の映像音響素材」と表記)が再生されるようにした。映像尺7種類とテンポ3種類の21通りと、対の映像の前後を変えることにより計42通りの映像を見てもらい、実験結果の信頼性を高めるためそれぞれの条件で5回実施した。
結果は、テンポ50の映像は、テンポ90(基準のテンポ)の映像と比較して、長いと判断される傾向があった。テンポ140の映像は、テンポ90の映像と比較して、短いと判断される傾向があった。よって、遅いテンポの音楽は映像を長く感じさせ、速いテンポの音楽は映像を短いと感じさせることが分かった。特に今回の実験では、遅いテンポの映像が長いと判断された確率がきわめて高かった。また、テンポ140とテンポ90の映像の場合、基準の映像音響素材と比較した際に、映像の長さに対し鈍感な結果となっていた。これは、映像の長さの違いをより大きくとらないと、映像の長さの違いは分かりにくいことを意味する。映像の長さの違いが分かりにくいのは映像の動きの複雑さも主観的長さに影響している可能性があるためである。
今後、研究を進めるにあたり、このような点を留意して実験を行うとよいであろう。