対人関係における同調性と自己同一性に関する基礎研究〜現代日本の若者社会の実態とアイデンティティ〜 [東京情報大学] [情報文化学科] [平成25年度卒業研究概要集] [平成25年度ゼミのリスト] [ゼミ学生一覧]
圓岡 偉男 ゼミ 平成25年度卒業論文
対人関係における同調性と自己同一性に関する基礎研究〜現代日本の若者社会の実態とアイデンティティ〜
吉川 由香里

現代の日本社会の公的教育は、義務教育から高等学校までは,それぞれに共通した一定のカリキュラムが組まれており,それに沿って"集団生活"をしていくという生活スタイルであった。しかし大学生活ではそのような生活スタイルとはちがい,個人がそれぞれの目的に向けて各自で行動していくようなスタイルで,ある程度行動が自由化され個人が尊重されるような傾向にある。そのような環境の変化のなかで"自己の在り方" ということがあらためて問われている。集団生活を強要されることのない環境で,現代の若者はどのように行動し,自分を表現していくべきなのか。

本稿では,現代の若者が心に抱えるさまざまな現実的な問題を,主に対人関係とアイデンティティに焦点をあて考察を重ねてきた。人間関係をめぐる現代社会における諸問題は,本論で考察してきた事柄を深く認識することから,現状に変化をつけるきっかけになると考えることができる。時代の流れとともに人々の性格構造は伝統志向型から内部志向型,さらには他人志向型へと変化をとげつつあるが,すべてが現状とうまく適応し順調に進化をとげているとは言い切れない場面も多く存在する。つまり作用に対する反作用、効能に対する副作用的意味合いの現象を見いだすことができる。こういったしわ寄せとも言える部分をうまく自己内で消化,解消といった対処をしきれていない若者が多いのではないだろうか。

相手と自分を切り離して考えることで、はじめて自分を個別化し自己認識可能であることは本論でも述べたが,今後はより一層その必要性が強まると考えることができる。

そして現代に顕著にみられるようになった他人指向的な傾向には終わりがみえない。それというのも,このような社会的性格をうみだした根本には,社会的背景が係わっているためである。それは、ひとのもっている「欲望」の追求であり,"楽をしたい"という願望のあらわれであると言いかえることができる。今後もその傾向は良くも悪くも変わることはないであろう。

また,現代の傾向として,モラルに対する意識の低下を指摘することができる。このように現代の人間関係を分析するとき,他者との同調性の問題は社会そのものを特徴づけるものであるといえる。社会の個々の成員のアイデンティティが社会に影響を受けることは,これまで分析した通りである。現代の若者の人間関係をみるとき,個性あるはずの個人が社会のなかに埋没していく実態をここに見いだすことができる。本研究は,ここにみられる対人関係における同調性と自己同一性に注目したものであった。現代に生きるわれわれにとって,人間関係とは一体なんであろうか。変化をつづける社会のなかに生きるわれわれにとって,自己の同一性はどこにあるのであろうか。われわれはこれらの認識を再度検討することにより,新たな可能性を得ることになるのではないだろうか。