この作品は、大学卒業も間近となって、さまざまな悩みを抱えた主人公が、謎の男の出現によってもたらされた不思議な体験を通じて、人間的に成長していく姿を描いた青春ドラマである。
恋人にフラれ、就職面接に遅刻、携帯を水没させ、担任からは単位不足を告げられて激しく落ち込む如月一(きさらぎ・はじめ)の前に、会社員を名乗る水嶋瑠嬉哉(みずしま・るきあ)が現れる。彼の会社は、人生に躓き、前に進めなくなってしまった人間を、過去や未来、異世界へと連れていくサービスをしているという。如月は水嶋とともに、大学入学当初の自分の姿を覗きに行くが、最初の自己紹介に失敗してしまった場面を目撃し、「あの過去を消したい」と叫んでしまう。さらに、資格取得の努力を簡単に放棄する自分や、恋人との出会いと別れの場面などを次々目の当たりにする如月。最後に水嶋は、このような過去をどうしたいかと如月に問う。しかし如月は、こんな恥ずかしさや後悔に満ちた過去も、その積み重ねの末に今の自分が存在していると思えば否定し消去することはできない、そして、そんなこれまでの自分の殻を打ち破り、これからの人生を前向きに生きていきたいという決意を述べる。そんな如月の想いを尊重し、水嶋は静かに姿を消す。しかし、その数日後、別の悩める若者の前に、またもや水嶋が姿を現したのだった。
本作のテーマは、人は誰でも消したい過去や変えたい自分を抱えているが、それを否定するのではなく、率直に見つめることで成長のきっかけが生まれ、心の持ち方次第で前向きなものへと変えられる、その努力が大切だということである。自在に時空を超えられるサービスを提供するという会社の社員を登場させて、主人公の人生の覚悟を問い、そこで彼が何を選択するのかという物語を創作したことで、このメッセージを的確に表現することができたと思っている。
反省点としては、シナリオ段階での主人公らの人物造形が明確でなく、出演者が役作りできないまま撮影に入ってしまったこと、共演者のスケジュール管理が行き届かず、しばしば現場の進行が滞ってしまったことなどである。
今回の制作を通じて、オリジナルシナリオを一から創ることの難しさ、それを実写化していくことの大変さを体験した。伊藤ゼミ生をはじめ、他ゼミや他学科の友人もスタッフ・キャストとして多数参加してくれたことで完成にこぎつけることができた。映像作品は一人では作れないものだということ、苦労が多いぶん、それにふさわしい学びが得られるということを、あらためて認識し、このドラマの主人公と同じように製作者自らも成長できたと考えている。