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伊藤 敏朗 ゼミ 平成24年度卒業論文
ドキュメンタリー『地元に根ざした伝統を伝える-久喜提灯祭り天王様』の制作
片山 郁美

この作品は、埼玉県久喜市の「久喜提灯祭り天王様」の平成24年7月の祭礼の模様と、それを支えた地元保存会の人々の姿を記録したドキュメンタリー番組である。

「久喜提灯祭り天王様」は、天明3年(1783年)の浅間山の大噴火で、土地の農作物が全滅したとき、その社会不安や生活の苦しみを乗り越えるため、人々が山車を引き回して豊作を祈願したのが始まりと伝えられている。

町内は7つの地区に分かれているが、その中から「志ん二」という地区を取材した。番組の冒頭で、祭りの概要と歴史を説明した後、志ん二地区祭典保存会のこの年の最初の役員会の場面となる。保存会の西谷会長にインタビューし、毎年の祭りで大切にしていることについて聞く。つぎに、5月なかばから毎週日曜日に行われるお囃子の練習風景となり、指導者にインタビューする。続いて保存会のメンバーは、久喜市立久喜中学校の「総合的な学習」の授業に招かれ、中学生たちにお囃子の実演や簡単な指導を行う。7月上旬、人形山車の装飾や人形を組み立てる作業が始まる。衣装の着せ方を工夫することで、リアルな人形の姿が表現されていく。そうして迎えた祭り当日の7月12日と18日、早朝から「提灯山車」「人形山車」の組み立てが始まる。祭りの2日間、町内を勇壮な山車が引きまわされていく。祭りのハイライトともいえる、提灯を灯した山車が回転する「まわし」や、山車と山車をぶつけあう「ぶつけ」の模様を紹介。最後に久喜市の田中市長、保存会の西谷会長にインタビューして、番組をまとめる。

この作品では、約230年もの間続いてきた歴史ある祭りを絶やすことなく伝えていこうという地元の人々の真剣な取り組みや、酷暑の中や雨の中でも懸命に山車を曳いていく気迫のこもった姿をカメラにおさめることで、久喜市民の郷土愛の強さ、素晴らしさを描きたいと思った。ハイビジョンカメラ(SONY AX-2000)を駆使して、祭りの準備や当日の模様に密着したことで、所期の目的を達することができたと思う。ただ、このカメラを三脚に載せたまま、混雑する祭りの中を移動することは困難で、似たような構図のカットが多くなってしまったこと、手持ち撮影では画面が揺れてしまったことなどが反省点である。

本作を制作したことで、保存会の会議や中学校での出張授業など、これまで地元にいながらも触れることのなかった祭りの側面を知ることができた。カメラを持つことで、運営側と観客側の両方から多角的な視点で故郷の祭りを見つめなおすことができ、それを番組としてつくりあげることの難しさと楽しさを学ぶことができた。