調性によって音楽の印象は異なるか? [東京情報大学] [情報文化学科] [平成24年度卒業研究概要集] [平成24年度ゼミのリスト] [ゼミ学生一覧]
西村 明 ゼミ 平成24年度卒業論文
調性によって音楽の印象は異なるか?
杉本 めぐみ

この論文は、曲の概念を考えるに欠かせぬ「調」という条件が、はたして印象に影響を与える要因となるのか否かを研究したものである。「調性格」とは、調が楽曲に調の固有の印象を持たせる特性のことである。本論文はこれの存在の有無を論じるものである。

今まで研究されてきた結果は皆、「調性格は個人個人で異なるものである」というものであった。しかしこれは個人の研究家が時代を隔てて研究した結果であり、今回4人の時代の異なる研究家の調性格の内容を調べたところ、似たような印象を与えるとされる調がいくつもあることを発見した。このことから、「固有の調性格」の存在の可能性があるのではないかと考えた。

116人の被験者を対象に曲評価用紙を使用した実験を行った。クラシックの楽曲を3曲選び、ト長調、ヘ長調、ロ長調の3種類の調に編集したものを用意した。被験者には、これらの楽曲を、調が重ならないようにランダムな順番で3曲聴取させ、楽曲ごとに曲の印象を評価してもらった。

得られた曲の印象を数値化し、平均値の比較を行った。そして実験の結果、単音を2つ重ねてメロディを紡ぎ、坦々としたポリフォニックな演奏の曲でのみ、ト長調の調性格の影響だと思われる結果を得た。ト長調は4人の研究家の意見をまとめた結果「素朴」「快活」という性格を持っていると言え、今回の実験でも同様の結果が得られたため、ト長調には「調性格」があるという結果が得られたといえるのである。

調性格に基づく結果が得られなかった楽曲はともに、メロディがひとつで和音が多い音楽であった。このことから、主旋律以外に音が多く重なっている音楽は調の印象よりも楽曲の印象が勝ってしまうために、調ごとの印象は比較しにくいのではないかという推定をするに至った。

また、ト長調は3種類の調の中で一番基本周波数が高い調である。移調するということはすなわち主音の位置を変えることであり、音楽全体の周波数の高さが変わることである。そのため音楽の全体の音の高さと音楽の印象に影響が及ぶ場合があるとも考えられるが、調性格に基づく結果が得られなかった他2曲の結果、周波数の高低と楽曲の印象は対応しないと言える。

調性の影響力は他の条件よりも少ないが、この影響力は楽曲によって異なるものであり、固有の調性格自体は存在し得るかもしれないという考察を行った。