この作品は、東日本大震災で甚大な被害を受けた千葉県香取市佐原の住民たちが、復興観光に取り組んでいる姿を記録したドキュメンタリー番組である。
かつて水郷の都として栄えた佐原は、久しく忘れられた過疎の町でもあった。旧い町並みの保存・修景に取り組んだ人々の長年の努力が実を結び、近年、多くの観光客が訪れるようになり、まちおこしの成功例として全国に知られるようになった矢先、2011年3月11日の大震災に見舞われた。番組では、2005年の震災前に撮影された美しい佐原のまちなみの紹介から始まる。場面は変わり2011年5月の震災後の佐原。雨が降りしきる町。小野川の土手は崩れ、伝統的家屋の屋根にはブルーシートが目立つ。ここで震災当日の映像(外部の方が撮影した素材)が挿入される。瓦がなだれ落ち土煙が吹き上がる。続いて、被災した人々が震災時の状況を生々しく語るインタビューとなる。そんな状況から、まず、おかみさんたちが動きだし、その輪がつぎつぎと広がっていく。「震災から復興していく町の姿を見に来てもらおう」という「復興観光」のための懸命な取り組みが、まちをあげて始まり、キーパーソンへのインタビューを中心に、ふるさとをこよなく愛する人々が、心を重ねて町を支えていく姿を描いていく。落ちた屋根瓦をあえて復興のシンボルとして利用し、中断した佐原囃子の音色が戻り、まちなみ案内ボランティアの名調子が観光客を湧かせる。一時は開催の危ぶまれた佐原の大祭(国指定重要無形民俗文化財)を迎え、町は老いも若きもひとつになる。湧き上がる歓声、山車に見惚れる少女、佐原に活気が戻ってくる。祭りの後の未だ復旧しない町の風景のズームアウトに、「ふるさとをこよなく愛する人々がいるかぎり、この町はいつまでも生き続けていく」とのナレーションが重なり、番組は終わる。
取材は震災後の5月末から開始した。佐原のまちに入って想像以上の震災被害の大きさに驚かされたが、インタビューを重ねるなか、人々は口をそろえて「私は佐原を愛している」と語り、「被災したからこそ、人々の心の絆が強くなった」という言葉に深い感銘を受けた。これほど故郷をこよなく愛する人々が、心を重ねて町を支えていく姿を、この時期だからこそ記録することができたということに、自分自身も誇らしい気分がしてきた。取材活動やインタビューを重ねるなかで、技術や知識も豊かになった。雨天時の取材では多くのマンパワーが必要であることや、混雑する大きな祭の中でインタビューを実施する難しさなどもよくわかり、勉強になった。
この作品は、佐原市民からのサジェッションを受けて制作が開始され、数々の協力者のおかげで完成させることができた。佐原の町の皆様、手伝ってくれたゼミ生や情報文化学科の後輩諸君ら、多くの協力者に感謝を述べたい。
本作は、平成22年度千葉県メディアコンクールの最優秀賞・千葉県教育委員会委員長賞を受賞した。