この作品は、一人の青年が幽霊との出会いをきっかけに変わっていくドラマである。
大学生の河井はオカルト好きの友人から、自分の大学にまつわる幽霊の話を聞かされる。それは学内のある校舎に泊まると、幽霊が現れ、難しいことを質問してくるのだという。答えられない者は、次の日に遺体で発見されるという。幽霊の存在など信じない合理主義者の河井は耳を傾けず、その校舎に1人で泊まる。果たして河井の前に、女の子の幽霊「聞く子さん」が出現。聞く子さんは河井に「空はなぜ青いのか?」などの質問を浴びせてくるが、成績トップの河井には容易く答えられるものばかり。こんな簡単な質問だけかと聞き返すと、聞く子さんは「私はなぜ、死んでしまったのか?」と問うてくる。この質問にばかりは答えることができない河井。しかし、明日までに答えなければ本当に呪い殺されてしまうらしい。河井は翌日、その答えを求めて歩き、数年前、この校舎で事故死した「犬寺菊子」という女子学生がいたことが判明する。夜になって出現した聞く子さんに、河井はこのことを報告する。聞く子さんは記憶が蘇り、自分が成仏できないでいる理由を語りはじめる。それは、撮影中に死んだことで仲間に迷惑をかけたという思いが残ったからだという。しかし彼女の話を聞いていた河井は、「犬寺菊子」が想いを寄せていた男子学生に、それを告げられずに死んでしまったことの方が大きな理由だと考え、聞く子さんに問い直す。その河井の言葉で、胸に秘めた自分の想いに気付いた聞く子さんは、河井に励まされながら、自分の最期の想いを大声で叫ぶ。全てを吐きだした聞く子さんは、河井に例を言うと、安らかに成仏して姿を消す。この不思議な体験を通して、最初は幽霊など信じていなかった河井が人の心の想いというものへの大切さに気づき、たとえ相手が幽霊であっても、手助けしたい・力になりたいという気持ちを抱くようになっていく。
この作品を作るにあたって最初に考えたことは、「怖くないホラー」を作ろうということであった。でき上がってみると、前半はホラー、後半はコメディタッチながら真面目な場面もある純愛ドラマというスタイルで、明らかに異なる雰囲気の物語が同居しているが、その展開の意外性が面白いという観客の意見もあり、全体としては好評価が得られた。ハードスケジュールの撮影ではあったが、協力者のおかげで、予定期間内でクランクアップできた。技術上の反省点として、夜景が多く、照明には配慮したつもりだったが、十分な効果が得られていないカットもあり、その難しさを実感した。
本作では、ひとりの青年が幽霊との遭遇という事件を通して変わっていく姿を表現したいと考えていたが、河井役を演じた出演者の演技力の高さで、その狙いを十分に表現することができた。また、物語では、女子学生が撮影中の事故に見舞われたことになっているが、これは「安全な撮影をこころがけよう」というメッセージでもある。
今回の作品制作を通じて、シナリオから全てオリジナルで作ることの難しさ、それを実際に撮影していく大変さを体験した。そして、協力してくれる人がいるからこそ作品は完成できること、苦労も多いが、それにふさわしい学びが得られるということを、あらためて認識した。