近年コンピュータの高性能化により,初心者でもコンピュータを使用した音楽制作などが比較的簡単に行なえるようになってきたため音にこだわる人も少なくない。コンピュータではソフトウェア化されたシンセサイザーで音が作られるが,トイピアノは楽器の中でも特殊な周波数の構成を持っており,トイピアノらしさはシンセサイザーで単純に整数倍音を合成しただけではを必ずしも表現することができない。そこで,この研究ではトイピアノ音の打鍵強度に対するスペクトルの変化を観察することによってトイピアノ音の特徴を分析した。
今回の観察では,2パターンの録音を行なった。1つ目はトイピアノのCとGの音,全5音を4段階の強弱をつけて手動で打鍵したものを,床板なしで3テイク,床板ありで1テイク録音した計80音。2つ目は半音階の上昇を床板なしと床板ありそれぞれ30音を1テイクずつ録音した計60音。これらを使用し倍音成分とレベルの関係,床板有無の周波数やレベルへの影響,特徴となる周波数とレベル,12平均律に対する周波数のズレに着目し分析を行なった。
分析の結果,どの音高でも基本音,第3,第6,第10倍音に相当する部分音が必ず現れることが分かった。打鍵強度と部分音のレベルはほぼ比例することが分かった。また,約600Hzから2000Hz付近の範囲でレベルが大きくなりやすい傾向にあることが分かった。
床板有無の影響について,床板があると100Hzから200Hz付近の低い周波数帯と3000Hzから4000Hz付近の高い周波数でレベル上昇があった。それ以外の周波数帯では周波数特性への床板の影響といえるものはなかった。
12平均律との周波数のズレは第3倍音に相当する部分音の周波数について比較的少なく,その他は高次になるほど高い方向にズレる傾向があった。
部分的に打鍵の強弱によって部分音の周波数のズレ方が変化する音高があった。この理由として該当する部分音は打鍵の弱いとき低いモードが発生し,強いとき高いモードが発生するためであるとを推測することができる。