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伊藤 敏朗 ゼミ 平成22年度卒業論文
ドキュメンタリー『手作り絵本がつなぐ絆〜手作り絵本の会の30年〜』の制作
豊留 香壽彩
野尻 由紀子

この作品は、千葉の市民サークル、「千葉手作り絵本の会」を紹介したドキュメンタリーである。

1978年の国際婦人年に開催された「婦人教室・手作り絵本講座」から発展して、1980年に設立された同会は、2010年5月に創立30周年を迎えた。その記念展覧会にむけた絵本づくりに取り組むメンバーの姿を追いながら、「手作り絵本」がつなぐ人々の絆を描くことが、本作のねらいであった。

番組は、2009年の展覧会の場面から始まる。アマチュアの手作りとは思えない質の高い作品群が、来場者に感銘を与える。次に、千葉市中央コミュニティーセンターで行われている例会の模様となり、30周年記念展にむけて、メンバーは新作の構想にとりかかり、絵コンテづくりが始まる。別の日、数人のメンバーが講師の岡部さんのアトリエを訪問し、個人指導を受ける。岡部さんの回顧も交えて、同会の歴史やメンバーの想いを聞く。続いて、設立時からのメンバーである岡本さんと向山さんが、自宅で創作活動に取り組んでいる場面となる。二人の長い経験で培われた確かな表現力をカメラに収めるとともに、絵本を通じた家族との絆の深まり、会のメンバーとの交流のかけがえのなさなどを語ってもらう。次に板垣さん宅での製本作業の場面となり、精密な工程を経て、しっかりとした装丁の本が完成するまでを描く。いよいよ展覧会の日も迫り、準備作業も加速。そして、「30周年記念展覧会」の当日となり、多くの来場者を迎える。板垣さんから同会の活動の苦労と楽しさ、将来像について聞く。展覧会終了後の合評会の様子を挟み、完成した絵本のダイジェストに、本作のテーマをイメージしたカットを追加して、番組をまとめた。

この作品で伝えたかったことは、世界でたった一冊しかできない手づくりの絵本というものを媒体に、30年という月日をかけ、メンバーや家族が培ってきた絆の深さであり、同時に、このような市民サークルの充実が、地域社会に潤いと安らぎをもたらす、豊かな社会教育活動となっているということの意義である。

取材を重ねていくなかで、ただ楽しいだけかと思っていた絵本づくりにも、創作の産みの苦しみを抱えているメンバーたちの姿を目の当たりにし、そのクリエーターとしての純粋な姿に頭が下がった。そして自分たちも、創作活動を通じた心の交流を持つことで、これからの人生を豊かなものにしていきたいと考えた。その想いから、番組の最後に、「私もいつか、自分の子どもに、私が描いた絵本を読み聞かせてあげたい。」というナレーションを加え、大学近くの住民の方の協力を得て、ナレーターと幼児とが絵本を前に微笑んでいるというショットを撮影した。従って、この場面だけはドキュメンタリーではないが、本作のテーマを明確に浮かびあがらせる効果があったと思う。

本作の番組としての構成には苦しんだ。製本の工程をわかりやすく伝えようとして、30枚近いイラストも描いたが、最終的には全て割愛し、取材した映像のみで構成した。BGMやナレーションも、試写をしつつやり直していったが、制作意図と観客の感じ方のギャップをどう埋めていくかということには最後まで悩まされた。

本作のテーマは、ゼミの先輩から引き継いだもので、全体としての制作期間は1年半に及び、編集は徹夜続きで多大な労力を要したが、その甲斐あって、2010年度千葉県メディア・コンクール(千葉県教育委員会主催)で最優秀賞・千葉県教育委員長賞を獲得した。丁寧な取材を積み重ね、取材対象との信頼関係を構築していくことが良い作品を生み出すということの、何よりの証左になったのではないかと思う。「千葉手作り絵本の会」の皆様に、あらためて感謝申し上げたい。