この作品は、「人生において人間はいくつもの選択を迫られる」ということをテーマにしたドラマである。進学や就職先、卒業研究などを選択し、今また将来の選択を迫られている自分自身の心情を、本作を通じて表現したいと考えた。
ストーリーは、主人公の洋一が、仕事に失敗する場面から始まる。恋人からも距離を置かれ、大きな不安を抱えた洋一は、ある日、地下道で不思議な力を持った携帯電話を拾う。洋一が「選択」に迷ったとき、その携帯画面に現れた文字に従って選択をすると、洋一は仕事に成功し、恋人とも仲直りできるのだった。次第にその携帯の魅力から離れ難くなる洋一だったが、このまま使い続けることが不安にもなってくる。そんなある日、洋一は地下道で自分の名を呼ぶ声に振り返る。そこには、洋一のために転落させられた男が、ナイフを持って立っていた。男は、「お前がいなくなれば、俺は人生の勝ち組でいられる」と言って洋一を刺す。別の日、同じ地下道で、新たな人物が同じ携帯を拾い上げる。物語が繰り返されることを暗示して、ドラマの幕が閉じる。
この作品では、たまたま幸運な選択をしたことで、一時の成功を得ながら、別の人間の恨みを買い、最後は命すら失ってしまう主人公の姿を通して、人の世の禍福は表裏一体でつながっているものだということを寓話的に描きたいと思った。主人公が、大事な選択を、拾った携帯電話などにまかせず、自らの判断と責任で行っていれば、結果はもっと別のものであったかもしれないという教訓も読みとってもらえると思うが、ありがちなストーリーとなってしまったことは否めない。制作日程を十分に確保できず、取り急ぎの撮影ばかりとなり、随所に粗さや拙さの目立つ結果となったことも反省している。
しかし、多くの仲間の協力を得て、それぞれの配役の個性が生きていることは、大きな成功だったと思っている。ことに、脇役でありながら、重要なキーマンとなる真嶋と美幸は、キャラクターを少しオーバーに演じてもらったことで強い印象を残し、本作に適度なコントラストを与えてくれたものと考える。