2010年8月、長寿国日本を揺るがす事件が起こった。100歳を越えた高齢者の生死が不明というニュースが続出し、改めてわが国の親子関係がもろく弱くなっていることが明らかになり、家族でさえ「どこにいるか知らない」などと、縁が薄れ、調査難航の高齢者もいるという。又、各都道府県の自治体では「届け出」をもとにしており、死亡届を出さない限り、戸籍や台帳上で生存扱いとなり、行政サービスを提供され続けることになるということである。2000年4月から実施されている介護保険制度とはどんなものなのか。世界最高水準の高齢化率に対応できるのだろうか。制度の目的である「介護の社会化」、「高齢者の自立支援」は、介護者の不安を解消できるのか。考えてみたいと思った。
昔は、というと高齢者の言い方になるが、子が親に孝行をつくすのは当たり前だった。社会の状況の変化で伝統的な大家族は解体し、核家族化が進んだ。さらに情報化が進むとともに家族の結びつきがより脆弱なものとなっていく。核家族は男女の愛情がなくなれば維持できなくなる。離婚・非婚が増える中で、夫婦の関係は永続するとは限らなくなった。高齢化の中で親子の関係もまた、もつれやすくなってしまう。分担し、支えてくれる人がいない中での介護・育児の負担は重い。これらを担いきる力を持つ家族は減っていく一方である。人間が、一人では生きることができない人生のはじめと終わりを支える介護・育児の最後のよりどころであるべきという機能を失った。私達が無意識に信じていた親子の情というのは、社会が道徳として、法律として強制しなければ失われるほどもろいものである。日本には弱った家族の機能を支える新しい仕組みが必要となっている。特に高齢者にである。この論文を通して、今こそ考えなければならないと思う。これからの将来のためにも。