現代社会はストレス社会と呼ばれ、人々はストレスで体に異状をきたしたり、うつ病に悩まされる人が近年増加している。その際人々は癒しを求めている。癒しの音楽、つまりヒーリングミュージックが多方面で広がっていて、今では一般のCDショップでもコーナーを設けられる程である。
今回はそういったヒーリングミュージックではなく過去に流行し聞いた曲を対象として音楽による癒しの要因を調べることにした。
この研究の目的は、歌詞や思い出などの過去の経験が癒しに結びつくかを聴取実験によって調べるものである。
歌詞や過去の経験が癒しにどう関係しているかを調べるため、過去の実験と同様に音楽を聞いて「迫力がある」「陽気だ」「きれいな」「鮮やかな」「ユニーク」「好き」「癒されたい時に聞きたいか」を評価する実験を行った。さらに今回の研究では新たに「歌詞の内容を知っている度合い」「歌詞の共感の度合い」「楽曲を聴いていた頻度」「楽曲にまつわる思い出はいい思い出か悪い思い出か」を追加し、自由記述で「楽曲にまつわる具体的な思い出」の評価項目を追加した。
今回対象としたのは、東京情報大学在籍の学生、計64名(男性51名、女性13名)で、年齢層は19〜22歳であった。選曲はJ-POPと呼ばれるジャンルの中から、被験者の年齢を考慮して、2003年〜2007年のオリコンチャート年間トップ10にチャートインした楽曲を使用した。年代の決定は、一般的に中高生になると音楽を聴き始めると考えたため、被験者(19〜22才)が中高生だった時に流行った楽曲を使用した。
実験結果は「迫力がある」「陽気だ」「きれいな」「鮮やかな」「ユニーク」「好き」「歌詞の内容を知っている度合い」「歌詞の共感の度合い」「楽曲を聴いていた頻度」の評価と「癒されたい時に聞きたい」の評価の関係を調べるために重回帰分析を行った。
過去の研究の通り、「好き」と「きれいな」の評価値が高い程「癒されたい時に聞きたい」という結果が今回の実験で改めてわかった。
歌のあるヒット曲においては、「歌詞への共感」の評価値が高い程「癒されたい時に聞きたい」という結果が得られた。「歌詞への共感」ほどではないが、「聞いていた頻度」が多い楽曲ほど「癒されたい時に聞きたい」という結果も得られた。思い出の項目を見ても、恋愛の楽曲でいい恋愛の思い出を挙げている人は、「癒されたい時に聞きたい」も高く、歌詞に共感しているので「歌詞への共感」の項目にも関係していることがわかった。
また「思い出」のよしあしと「癒されたい時に聞きたい」の関係は相関をとった結果、全体的に相関が低かったため、あまり関係がないという結果になった。