この作品は、社団法人千葉青年会議所が、2009年の夏に開催した「子供富士山登山」の記録映像である。同会議所は活動事業の一環として、さまざまな青少年健全育成事業を実施しており、2009年度は、「おもいやり-やさしくあるためにつよくあれ」をテーマとして、子供たちによる富士山登山を敢行することとなり、そのビデオ撮影がわれわれに依頼された。
番組は、2009年7月4日と18日、千葉市科学館「きぼーる」におけるオリエンテーションの場面から始まる。公募によって集まった小学校高学年の児童37名は、最初のうちこそ不安な表情ながらも、会が進んでいくうちに打ち解けあい、笑顔が出てくるようになる。7月28日、登山当日を迎え、子供たちは富士山五合目の須走口から、意気揚々と歩き始める。あいにくの荒天で濃い霧の中を登りながら、はやくも足首を捻挫したり、高山病のような症状を呈する子供が現れる。しかし子供たちは、青年会議所のスタッフやボランティアの大学生にサポートしてもらいながら、誰ひとり弱音を吐くことなく、仲間と助け合いながら、岩だらけの登山道をよじ登るように進んでいく。七合目の山小屋に到着し、食事もそこそこに、疲れて寝てしまう子供たち。翌朝、山小屋を激しい風雨がたたく。スタッフは何よりも安全を優先し、下山することを決定。残念ながらも満たされた思いを抱えて、子供たちは山を下りていく。
今回の取材では、子供中心のイベントであることから、カメラを子供の目線に合わせて撮影するようにした。富士山の登山道はどこも足場が悪く、三脚を立てることもできなかったが、風にあおられながらもしっかりとカメラをホールドし、厳しい岩道を子供たちが苦心惨澹しながら歩んでいく迫力あるショットを撮ることができた。しかし登頂をあきらめ、下山することが決定してからは、子供たちの残念そうな表情にどうしてもレンズを向けることができず、インタビューもできなかった。このため番組の終盤は、やや薄いものになってしまった感がある。予期せぬ事態はたびたび起こったが、そんな時、どのように臨機応変な対応をして番組をまとめていくのかは、とても難しい問題だと思った。また、このイベントには、5名の東京情報大学生が参加して4台のカメラを持参したが、高い湿気のためにカメラがつぎつぎと結露して撮影できなくなり、機材選択に大きな課題を残した。機材を担いでの山行そのものが厳しいものであり、過酷な現場でドキュメンタリー番組を制作するということの難しさを思い知った。しかし、このような苦労の甲斐あって、大自然を舞台に、目標に向かって多くの人間が一緒に努力していくことの素晴らしさを伝えることができる番組が完成できたと思っている。
このイベントを取材したことによって、青年会議所のメンバー達が、地域の子供たちの育成のために、文字どおり泥だらけになって頑張っている姿に接して感銘を受けるとともに、子供たちにも、はじめて出会う人々に対する感謝の気持ちや仲間を思いやる心が育まれ、成長していく様子がよくわかり、カメラをまわしながら、とても大切なものを学ばせてもらった気がした。