聴能形成とは「音に関する感性の教育・訓練を体系化した方法で実施し、聴能の基礎を正しく、能率良く身に付けられるようにすること」である。日本では、約40年前に九州芸術工科大学音響設計学科(現 九州大学)で故 北村音壱教授により授業へ取り入れられ、現在に至っている。また、その他音楽系学校やケンウッド、松下電器といった音響メーカー、HONDAなどの自動車メーカーの社員教育にも取り入れられている。これまでの聴能形成では、音圧レベルや周波数、スペクトルなどの様々な弁別、識別訓練が行われているが、圧縮による音質劣化を識別する訓練は行われていない。
そこで本研究は聴覚訓練システムを使用して、mp3変換による音質劣化の識別訓練による訓練効果を明らかにすることを目的とした。訓練の前にまず個人の識別能力を測定した。訓練は毎週同じ曲で行い、訓練終了後に再度、訓練前に測定した曲での識別をやってもらった。その結果、同じ曲で訓練することで、その曲の識別成果は上がった。だが特定の曲の訓練による、能力の向上には個人差があり、訓練が識別能力の向上に繋がった者と、あまり影響がなかった者とが現れた。また、同一人物でも曲によって、この識別能力は向上したりしなかったりすることがあった。本研究では、この訓練を経た後での識別能力が、ある程度の時間を経ても持続するのか、ということも調べた。その結果、これもまた個人差があり、持続していると見られる者や、訓練前にまで逆戻りしている者もいた。