過去に行われた短い旋律の音楽的明るさの研究では、純音を用いた旋律によって、演奏音域の効果やテンポの効果について調査を行っているが、倍音構造については取り上げていなかった。
一般的な音楽は、純音だけではなく、複合音による旋律が用いられている。折井千恵氏の平成20年度卒業研究で、複合音の倍音構造、長調・短調、音域が音楽の明るさに与える影響を調べられた。この研究は、その追試を行うものである。
実験で使用する音は、長音階、長音階低音、短音階、複合音1(1〜3倍音)、複合音1低音、複合音2(1〜6倍音)、複合音2低音の7つの音である。これらの音を聴いて感じ取った「明るさ」について、Scheffeの一対比較法(浦の変法)を用いて評定させた。これは、2つの音を組み合わせて、前後を入れ替えたものは別のものとみなし42通りの組み合わせをつくった。それぞれに対して、「前の方が非常に明るい」〜「後の方が非常に明るい」までの7段階の評価を行った。
従来の研究結果と今回の結果を比較すると、音楽経験者と未経験者では、未経験者の評価の範囲は広く、経験者の評価の範囲は狭くなっていた。未経験者は、高次倍音が含まれている方を明るいと判断しており、音色によって旋律の明るさを判断していた。一方、経験者は、二種類の倍音の評価にあまり差がないので、音色で旋律の明るさを判断していなかった。これらは従来の研究結果と同じ結果だった。さらに、クラスター分析で同様な評価の傾向を持つ被験者のグループ分けを行ったところ2つわのグループにわかれた。音楽経験者と未経験者で分かれなかったが、2つに分かれたグループのうち一つは全員が音楽経験者であった。グループ分けを行った結果、倍音で明るさを評価している人がいる事と、音楽経験者の中には短音階を最も暗いと評価する人たちが居る事が分かった。これらは課過去の研究結果とは一部異なる結果となった。