J・K・ローリングの児童小説『ハリー・ポッター』シリーズは、全世界で4億部が販売される大ヒットとなり、実写映画化、ゲーム化、キャラクターの商品化などがおこなわれ、児童文学界のみならず宗教界にも論争を巻き起こすなど、大きな社会現象となった。
本研究では、このような大きなブームはなぜ、どのように生じ、いかなる現象と影響を残したのか-すなわち"『ハリー・ポッター』とは何であったのか"について、包括的な考証を試みたものである。
そこで、原作者J・K・ローリングの人間像や文学的背景、本作の世界観とストーリーテイリングの技法、映画化に際しての論争や評価などについて分析した。
その結果、同シリーズは、原作者が学んだ古典文学や北欧神話などに根ざした文学的な深さと、ユーモアに富んだ豊かな想像力が世界の読者を魅了し、子供たちの活字離れを食い止める役割をも果たしたこと、映画表現技術やマーチャントダイジングの技法の発達と期を一にした稀にみる商業的な成功をおさめたこと、そして欝病を患い生活保護を受けていた一人の女性新人作家が一夜にして大富豪となったサクセスストーリーなどがあいまった、まさに「夢が詰まった本」というべきものであることがわかった。