「カメラ・オブスキューラの原理と構造」のテキスト作成に関する研究 [東京情報大学] [情報文化学科] [平成20年度卒業研究概要集] [平成20年度ゼミのリスト] [ゼミ学生一覧]
伊藤 敏朗 ゼミ 平成20年度卒業論文
「カメラ・オブスキューラの原理と構造」のテキスト作成に関する研究
梶原 利志也

本研究は、「カメラ・オブスキューラ」の原理と構造を、一般の人々にわかりやすく解説したテキストを作成することを通じて、その理解の普及につとめるとともに、テキストの構成方法や表現の方法について考察したものである。本テキストは以下の論旨でまとめた。

カメラ・オブスキューラとは「薄暗い箱」という意味である。物体は光源からの光をあらゆる方向へ反射しており、その前にただフィルムを置いても像は結ばないが、ピン・ホールを設けた暗箱の中には、限られた方向性をもった光線束)だけが達して「錯乱円」を形成し、錯乱円の集合によって「虚像」ができる。ピン・ホールを大きくすると、通過する光線束が増えて虚像は明るくなるが、錯乱円も大きくなるので虚像はぼやけてしまう。このピン・ホールにかわって凸レンズを用いることで、光線束を「焦点」に集めることができ、これによって明るく鮮明な虚像を得ることができる。この虚像をなぞることで現実の風景を正確に写生することができるようにした装置がカメラ・オブスキューラであった。その後、カメラ・オブスキューラの中に感光材料を入れ、虚像を記録して「写真」として残すことができるようになったのが、現在のカメラである。

凸レンズの前後に絞りを設けて、進入する光線束の数と進入角度を制御することによって、錯乱円の大きさを変化させることができる。撮影しようとする被写体の虚像を形成する錯乱円の大きさが、「許容錯乱円」より小さければピントがあった状態、大きければピントがぼけた状態となる。このため、絞りの大小によってピントのあう範囲、すなわち「被写界深度」を深くしたり浅くしたりすることができ、写真表現上の基本技術となる。

凸レンズの結ぶ焦点と、凸レンズの光学的中心点との距離を「焦点距離」という。フィルムの大きさと焦点距離によって形成される角度が「画角」であり、焦点距離が短いと画角は大きくなって「広角レンズ」となり、焦点距離が長いレンズは画角が小さくなり「望遠レンズ」となる。焦点距離はミリメートルで表し、絞りの大きさは焦点距離を絞りの径で割った値、F値で表す。

以上のように、カメラ・オブスキューラの原理からひもとき、現在の写真表現の基本となる原理や技術、用語などを理解できるようにした。

テキストの作成に際しては、複雑な原理や概念を多くの図を用いて表現することで、理解しやすいものとなるように工夫した。このテキストを制作したことによって、ある知識を一から教えるということの難しさ、そのための表現方法や構成順序、レトリックというものがひじょうに重要であることを学んだ。自分自身も写真表現のための効果や技法についてより深く理解してスキルアップすることができ、有意義な取り組みであった。