本作品は、2008年の夏、高知県の「よさこい祭り」に出場した「北海道高知県人会&県庁正調クラブ」のチームからの依頼を受けて、祭り当日の踊りの模様を中心に映像記録をおこなったものである。
昭和29年から続く「よさこい祭り」であるが、近年では、テンポの速い音楽にあわせて激しい踊りを披露するチームが目立ち、中高年やお年寄りにはついていきにくくなったという声もある。そうしたなか、「北海道高知県人会&県庁正調クラブ」が受け継ぐ「正調よさこい鳴子踊り」は、小さな子供からお年寄りまでがゆったりと踊ることのできる振り付けを大切にしている。そして、誰もが楽しめ、温かみのある`よさこい鳴子踊りの原点'として幅広く支持されている。
8月10日、11日の2日間で行われた祭りの当日、同チームの列の中にカメラを持って入り、密着取材を行った。撮影に際しては踊り子と同じ法被を着て、踊り子の列の中でカメラを構えた。こうすることによって観客からも目障りな存在となることなく、踊り子の表情を正面から間近に捉えることができた。取材中はチームの踊り子約50名の一人ひとりの表情と動きを的確に捉えることに力を入れた。前へ進みながら踊る人々の前方に割り込みつつ、後ずさりしながら行うカメラワークは難しかったが、手持ちカメラの躍動感を生かしながらも安定した見やすい映像となるように努力した。子供の踊り子を撮る時は、カメラを持ちかえ、ローアングルにして子供の目の高さで撮影するなど工夫をした。こうして、12の会場での踊りと閉会式の模様を4時間半に渡ってテープに収めた。
その後約2ヶ月をかけて編集を行い、踊りの所作が音楽にあわせて自然につながって見えるよう、注意深く作業した。「正調よさこい鳴子踊り」が約45秒ごとに同じフレーズの繰り返しとなることを活かし、それぞれの踊り子の動作の同じポイントでカットを切り替えることによって、1台のカメラで撮影した映像を、あたかも複数カメラで撮影したものであるかのように見せていった。また、現地録音だけでは自然な音のつながりにならないため、「正調よさこい節」の音楽CDの音源を重ねてミキシングし、現場の踊り子たちの掛け声と音楽とを聞きやすいバランスにした。これに字幕や会場の地図なども適宜挿入して、会場の全体像やチームの移動の経過がわかりやすくなるように構成した。
こうして67分40秒の番組が完成し、DVDにダビングしてチームの人々に進呈した。DVD化に際してはメニューやチャプターを設け、見やすく扱いやすいものにした。完成作品を見た方々からは、「皆が楽しく踊っている姿がイキイキと写されており、とても見やすい」などの感想が聞かれた。このような評価を頂けたことから、`チーム一人ひとりの表情を捉え、記憶に残る作品にする'という当初の目標は達成できたと思われた。ただ、カメラが1台だったこともあり、会場の遠景や観客の様子などの絵を押さえるということができなかったのは、編集後の反省点であった。
この番組制作を通じて、自分の想いのみで作品を作るのとは異なり、`番組を皆のよき思い出にしたい'という依頼者の要望に応えるための撮影・編集を念頭に置いて取り組んだことは、仕事として請け負う映像制作、誰からも受け入れられる番組づくりというものの大切さを考えさせられ、将来においても活かせる貴重な経験となった。そして、メディアを通じた地域貢献活動を行うことで、作り手の見識や社会性も大きく成長するものだということが実感できた。
今回のことで、故郷である高知の「よさこい祭り」への愛着が増し、正調を大切に踊り続ける「北海道高知県人会&県庁正調クラブ」の伝統を守る活動のあり方、メンバーの真摯な姿勢に深い感銘をうけた。今、激しく`ヨサコイ'を踊っている若者が三十年後には「正調よさこい鳴子踊り」を踊っているのではないだろうか。そんな思いがする。