過去の研究では、相互相関係数の異なる白色雑音対を2チャンネルスピーカ再生した場合の音像の空間的印象は広がり感、距離感に規定され、音像の広がり感は左右チャンネルの相互相関係数が0の時、距離感は1の場合に最大になることが分かっている。2チャンネル音響信号のヘッドホン受聴時の空間的印象はどのような物理的要因で心理的要因を得ているかを、相互相関係数を変えて調べた研究がある。結果は、広がり感は左右チャンネルの相互相関係数の絶対値が小さくなるほど広がっていると感じ、上下感は絶対値が大きくなるほど上方に定位するということが分かったが、前後感については空間的印象とはっきり対応しなかった。被験者が2人と少ないことが原因なのではないかと思われる。よって、一般性を得るために、追試を行った。今回は、被験者を4人としてより多くの実験データを得ることを目的とする。さらに、非正常者(右耳中度難聴者)を一人交えた。
実験はヘッドホン受聴により行った。相互相関係数の異なる7種類の雑音を2つずつ組み合わせて、そのすべての組み合わせ(42通り)について一対比較により、音像の空間的印象が「まったく同じ」、「わずかに異なる」、「異なる」、「かなり異なる」、「まったく異なる」の5段階で類似性判断を行った。被験者は正常な両耳聴力を有する成人3名、非正常者1名に対して各2回ずつ実験をおこなった。実験結果は、音像の空間的印象に関する類似性マトリックスであるので、それを個人差つき多次元尺度構成法で分析した。さらに心理的要因を広がり感、前後感、上下感の3つについて同様な実験を行い、シェッフェの一対比較法を用いて尺度値を求めた。そのシェッフェの一対比較法を用いて表した心理的要因の尺度と空間的印象の類似度の結果との相関を求めた。その結果、空間的印象の類似度と広がり感、上下感の相関は高く過去の実験と似たような結果を得えており、過去の実験は一般性があるということがいえる。しかし、前後感は空間的印象との対応をはっきりさせることができなかった。
非正常者は空間的印象の類似度とシェッフェの一対比較法を用いて表した心理的要因の尺度との相関が低く、音像の空間的印象の明確な心理的要因を得ることができなかった。今回の非正常者は音楽経験があり、音の音色で空間的印象を判断しているのではないかと思われる。