本研究は、『三国志』という歴史書を通して人間関係と時代背景を追求し、その史的記述とその構成を検討したものである。
中国にはたくさんの書物や歴史書、物語が数多く残されている。そのなかでも日本人に良く知られていると思われるのは『西遊記』や『封神演義』、『水滸伝』といったものだろう。これらの物語は、実際に歴史の中で『三国志演義』のもとになった『三国志』という歴史書に展開された人間関係、そこから繰り広げられる壮大な社会の変動を見ることができるのである。そして、本稿では、『三国志演義』がもつ物語としての側面ではなく、『三国志』にみる歴史書としての一端をより深く分析する。
そもそも『三国志』とは、後漢王朝滅亡時から三国時代をへて、晋の中国統一までの西暦155年から283年にかけて、実際に中国で起きた歴史の一部であり、もともとは一つの国として成り立っていたものが、群雄割拠の時代をへて3つの国に別れ、戦い、そして滅んだ結末を歴史書としてまとめたものであり、正式な中国の歴史書のことを指す。この歴史書としての『三国志』についての全体像を探ることで新たな視点で物事を見ることができるものと考える。
さらに、三国時代という歴史を通してその時代に生きていた人々の人生と時間を確認し、彼らの意思と人間模様に迫ることにする。また、人間同士の関わりがいかにして個人の人生を変えたのか、時代や人間関係に翻弄されながらも強く生きる人間の精神を深く探ることで、時代の流れのなかで生きた者の意志と現代に生きるための多くの教訓を知ることが出来ると考える。そして、現代にまで残る『三国志』の著者に着目することで時代というものを残す者の意思を探ることで「伝える」という事の壮大さと、歴史書に隠れた著者の心情を追及することで『三国志』にこめられた想いを探ることができるものと考えている。