囲碁には俗に『宇宙碁』と呼ばれる特殊な打ち方が存在する。盤面の上と下、左と右がそれぞれつながっていると仮定して打つ囲碁で、通常の打ち方はそのほとんどの効力を失ってしまうという打ち方である。だが、将棋にはこの、上下左右をつなげる打ち方がないのである。上下をつなげてしまうと、ゲームにならなくなってしまう、という理由があるためなのだが、そこで、上下は無理でも左右だけを繋げるのであればゲームとして成り立つのではないか、と考え、その想像を元にこの卒業研究を始めたのである。
将棋は、左右をつなげる事によってそのあり方を変化させた。完成こそしなかったもののプログラムを作成し、いくつかの戦法を模擬勝負で利用してさまざまな打ち方を研究し、また、模擬試合によっていくつかの打ち手・指し手の研究も行った。その結果、戦法や定跡などは、通常の将棋のものを使っていると痛い目を見ることになったり、特定の駒が異常な強さを誇ってしまったり、攻め方・守り方も通常の将棋とは一変するなど、色々な変化が起きた。特に角の強力化は群を抜いて顕著に現れ、ゲームバランスの一角を崩してしまう事になった。しかし、その結論は私の想像とは打って変わって、通常のゲームとして機能する、と言うものであった。ゲームバランスも通常の将棋と比べてしまうと悪いと言わざるを得ないものの、ゲームとして遊ぶ上では問題ないレベルで落ち着き、勝負もそこまで一方的なものにはならなかった。だが、通常の将棋よりもより深く、念密な戦法や考え方が必要になり、攻防戦においてもかなり深く考えないと痛い目を見ることになってしまう。
しかし、それらをすべてまとめて、円筒将棋というものは現実的な範囲で成り立つ、と言うことを論じているのがこの論文である。