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伊藤 敏朗 ゼミ 平成19年度卒業論文
情報大ステーション2006第3回『菜の花の里を結ぶ鉄路』の制作
松本 悠紀

この作品は、房総のローカル鉄道「いすみ鉄道」に乗って、菜の花にあふれる沿線の風景を紹介しながら、地域文化や交通問題、環境問題などについて考えたものである。

いすみ鉄道は、JR外房線の大原駅から上総中野までの26.9キロを結ぶ、第3セクターが経営する地方鉄道である。

番組では、まず、地元大多喜高校の2人の生徒がレポーターとなり、大原駅からディーゼルカーに乗り込む。いすみ鉄道の沿線各所では、観光と地域おこしを目的に、菜の花が植栽されており、満開の桜ともあいまって美しい春の田園風景が展開されていく。レポーターは、大多喜駅で途中下車すると、人力車に乗ったり、町並み案内ボランティアの方のツアーに参加したり、大多喜城の中の博物館(県立中央博物館大多喜城分館)を見学するなどして、自分たちの郷土についてあらためて学習を深める。次に大多喜駅構内で、ディーゼルカーにBDF(バイオ・ディーゼル燃料)を給油する場面を見る。いすみ鉄道では、廃油をリサイクルして精製した環境に優しい燃料であるBDFの試用を行なっている。高校生レポーターは、このBDF車両に乗って、東総元駅に向かい、折から開催中の「なのはなエコフェアin大多喜」の会場にやってくる。「なのはなエコフェア」は、資源循環型社会の実現にむけた様々な取り組みを紹介するためのイベントである。高校生レポーターはここで、搾油機を使った菜種油の精製を見たり、家庭の廃油から石鹸を作っている団体の方にインタビューをしたり、BDFで動くトラクターを見学するなどして環境問題について学ぶ。高校生レポーターは再び車両に乗りこみ、夷隅の山あいの渓谷をぬって走り、終点の上総中野駅で下車して映像レポートを終える。

ここでスタジオに戻り、いすみ鉄道が経営難のために存続が危ぶまれていることに触れ、地域の人々がいすみ鉄道の存廃問題について考えるシンポジウムが開催された模様が挿入される。今回の高校生レポーターの男子生徒も、大多喜高校の生徒会長としてシンポジムで登壇し、通学路線としてのいすみ鉄道の重要性を訴える。最後に司会者が、「鉄道そのものが千葉の貴重な文化財になっている」と述べ、番組をまとめる。

この番組の制作にあたっては、美しい田園風景の中を走るいすみ鉄道の魅力を伝えるために、菜の花がきれいに見える場所を探し、車両が走ってくるタイミングにあわせて撮影することにつとめた。限られたダイヤで運行される車両を、さまざまな撮影ポイントでカメラにおさめるべく、ゼミ生を計画的に分散配置した。撮影ポイントによっては、長時間一人で待機しなくてはならないゼミ生もいたが、その苦労の甲斐あって、列車走行シーンの映像は、いすみ鉄道の社員の方からも、「よくこれだけ撮れましたね」と言って頂けるだけのカットで構成することができた。

そのほかの作品評価としては、「いすみ鉄道と菜の花の映像の見せ方が美しく表現されている」、「大学生と高校生が真剣に番組制作に取り組んでいる姿に感銘を受けた」などの意見があった。このような評価があったのも、いすみ鉄道の走行シーンの撮影に労力を惜しまなかった成果だと感じる。また、レポーターを務めてくれた高校生が自らカメラを回しながら、各所でさまざまな体験を通して旅をしていく番組構成が、視聴者にとっても気持ちのよいものとして受け入れられたのではないかと思っている。

反省点として、限られた番組の時間内で、地域文化、環境問題、交通問題など、盛りだくさんのテーマを紹介することになってしまい、全体として忙しい印象の番組となってしまった感があることである。もう少し見せ場を限定して、内容を深くするような構成を考えてもよかったかもしれない。

しかし、地域の魅力と、その中に抱えている問題点とがバランスよく盛り込まれ優れたテーマ性のある番組だと評価して下さる関係者があり、番組放映後、本作は、県立中央博物館大多喜城分館のビデオライブラリーに加えられることとなった。現在、本作は同館ロビーに設置されている自動再生装置でリクエストボタンを操作することで来館者が自由に視聴できるようになっている。このような形で地域の映像ライブラリーとして活用されるということは、本シリーズの趣旨にもっとも合致するところであり、本作の大きな成果であると考えている。

この番組の制作のために、大多喜の町を初めて訪れ、その城下町の情緒溢れる町並みや、鮮やかな菜の花の中を走り抜けるいすみ鉄道の姿を目の当たりにし、千葉にはこんなにも美しいところがあるのかと感動した。この感動をあますところなく視聴者に伝えるためにはどうすればよいのかと苦労したことで、映像表現の難しさと面白さを学ぶことができた。