江戸時代中期の浮世絵師、鳥山石燕。かの美人画の名手喜多川歌麿の師匠として一般には知られているが、美人画の遺品のみならず、錦絵関係の作品もほとんどない。それでは一体石燕は何をしていた人なのか。その答えは絵本類、しかもその多くは妖怪絵本である。この限られたジャンルに石燕はことのほか力を注ぎ、民衆を魅了したのである。石燕が後世に伝えた妖怪達は少しずつ形を変え、名を変えながらも、現代においても多くの人に愛されている。
この論文では、鳥山石燕が残した妖怪絵本の超大作「画図百鬼夜行」「今昔画図続百鬼」「今昔百鬼拾遺」「百器徒然袋」の全4作品からなる画図百鬼夜行シリーズで描かれた全202種の妖怪や怪奇現象の絵を一枚ずつ紹介している。この論文を通じて一人でも多くの人にこの画集の存在と画力、構図の素晴らしさ、一つ一つの妖怪に古くから伝わる逸話が存在することを知ってもらいたいと思う。