初めての稲作体験〜谷当グリーンクラブ〜 [東京情報大学] [情報文化学科] [平成18年度卒業研究概要集] [平成18年度ゼミのリスト] [ゼミ学生一覧]
伊藤 敏朗 ゼミ 平成18年度卒業論文
初めての稲作体験〜谷当グリーンクラブ〜
王 睿

この作品は、レポーター役の高校生と、「情報大ステーション」の番組スタッフの大学生らが、東京情報大学にほど近い谷当町の水田で、「谷当グリーンクラブ」のメンバーとともに、半年間にわたって稲作作業にとりくみながら、日本の米作りを紹介したものである。留学生の視点から、日本の美しい里山の四季の風景に、中国語のナレーションをのせて制作した、シリーズの中でも特別な番組である。

「谷当グリーンクラブ」は、都市と農村の住民が一緒になって作物を育て、安心して食べることのできる食品を自家生産したり、都市と農村の交流を深めるための多彩な活動を展開している。

番組では、2005年3月、大雪にみまわれた田園の風景から始まり、土起し、種まき、田植え、草取り、案山子作り、稲刈り、乾燥と脱穀という、米の成長と収穫プロセスを、克明に追う。レポーター役の高校生や大学生が、「谷当グリーンクラブ」のメンバーとともに田んぼに入り、泥にまみれながら自分たちの手で稲を植え付け、秋にはともに収穫の喜びをわかちあう。番組の最後に、スタジオで、自分たちの手で作った米を炊いて食べ、長期間にわたる体験を締めくくる。

この作品のねらいは、都市に育ち、米を消費はするが作ったことなどない若者達に、実際の稲作というものを知ってもらうことである。都市の生活のスピードに追われて疲れた人々が、自然に親しむことで癒されながら、米作りの奥深さや楽しさに目が開かれていく様子を描きたいと思った。稲の成長していく過程を、小さな苗の段階、田に水が入る瞬間、炎天下の夏、台風の到来など、季節の節目ごとに、現地に通って映像記録し、秋の実りのシーンではクレーンを使うなど、撮影上さまざまな工夫を行った。

いっぽう、取材では高校生や「谷当グリーンクラブ」のメンバー、オタマジャクシと遊ぶこどもたちなど、このプロジェクトに関わる多くの人々の姿も追ったが、短時間の番組の中で、その全貌を簡潔に表現することには難しさもあった。

視聴者の反応としては、「一年間の農作業と四季を、短い映像の中に良くまとめた」「中国語のナレーションは素晴らしかった」などの好意的なものが多かった。一方、「もっと作業中の生の声、作業していた人々の感想や素直な意見が聞きたい」「高校生の参加した部分が明確ではないため、スタジオの部分がとってつけた感じを受けた」などのコメントもあった。高校生も、長期にわたって制作に協力してくれたわけだが、田んぼの取材は毎週のように頻繁に行なう必要があったため、結果的に高校生が出演できなかったシーンが増えてしまったのは事実であった。

この作品は視聴者、特に若者たちが見て、自分でも稲作体験をしてみたいと動機づけられるような番組にしたいと考えていたが、番組評価のコメント欄には、そこまで感化されたという感想はみられなかった。ただ、レポーター役の高校生の一人にとっては、この番組体験が強いひきがねとなり、進路として東京農業大学を志願し、入学を果たしたことを特筆しておきたい。

この作品の制作を通じて、日本での留学生活のなかで農作業を学ぶという貴重な体験ができ、「谷当グリーンクラブ」の方々と楽しく触れあう中で、日本の人の優しさ、親切さなどを深く感じた。また、米というものが、容赦のない風雨にたたかれても強く成長し、豊かな稔りをとげる様子に強く印象づけられ、それはまるで人生の象徴であるように感じられて勉強になった。谷当の田んぼで見とどけた日本の米作りの体験は、一生忘れられないものとなった。