私はNHKのドラマ番組として放送されていた「蝉しぐれ」という作品を見て、そこで初めて藤沢周平をいう作家のことを知りました。それまでまったく知らなかったのですが、その後、著者の作品の一つ、「たそがれ清兵衛」の映画を見て、素直に面白いと感じ、更に作者に対する興味を持ちました。幼い頃から父親の影響で、時代劇が好きで、この藤沢周平作品と出会うきっかけにもなりましたが、今まで見てきた時代劇は一人、もしくは数人の武士が大人数の相手に大立ち回りして、バッタバッタと切り捨てていく世に言う痛快娯楽作品しか見てきていませんでした。しかし、藤沢周平作品にはそのような大立ち回りも、一国の危機を簡単に救うなどといった大それた場面はありませんでした。あくまで登場人物は英雄的な人物ではなく、その時代にいたであろう下級武士であり、藩命などによってやむにやまれて刀を取らざをえない状況だったというもので、今まで見ていたものとは一線を越えていて、リアルな世界を描いていると感じた。けっして、史実ではない、けれどもそういう人物がいたかもしれない、そういう出来事があったかもしれない、そういう風に感じる事が出来るものが藤沢作品にはありました。また、これらの作品の中では、名も無い武士の素朴な人生を書いている作品が多く、他の作家にはあまり見られない下からの目線というものを感じことができると聞いていました。このような点から、私は藤沢周平がどのような人物でどのような人生を送ってきたのかを知りたくなりました。そこで、本論分では、さまざまな証言をふまえて作家藤沢周平がどのような人物であったのかを捉えていきたいと思うしだいである。