音響電子透かしとは、楽曲に埋め込む電子透かしのことであり、電子透かしとはデジタル技術で作られた作品の情報の中に所有権や著作権といった個人情報を埋め込み、それが違法に使用されたとき、それが自分の作品でありその使用には違法性がある、ということを明確にするための目的で作られた技術である。
しかし、音響電子透かしは、楽曲に埋め込むことによって楽曲の音質を劣化させてしまうのである。透かしの強さが強ければ、音質の劣化が激しくなり、強さが弱ければ、mp3音源などに圧縮した際、埋め込んだ電子透かしが弱まり検出できなくなってしまうことがある。音響電子透かしの強さと音質との間には、そういった相反関係が存在するのである。
ある強さの電子透かしを楽曲に埋め込むことで、どの程度音質が劣化して聴こえてしまうものなのか。それを調べるために被験者に対し二重盲検法を用いて、音響電子透かしにおける音質劣化の検知実験を行った。
実験には、原曲に対し0dBの強さの透かしを埋め込んだ楽曲、原曲に大使10dBの強さの透かしを埋め込んだ楽曲、原曲をmp3でビットレート96kbpsに圧縮した楽曲、原曲をmp3でビットレート128kbpsに圧縮した楽曲を使用した。透かしを埋め込んだ楽曲のほかに、mp3音源の楽曲を実験に使用したのは、透かしによる楽曲の劣化の基準とするためである。
7曲の楽曲を用い被験者3人に対しての実験と、そのなかで劣化の検知がもっともされやすかった2曲を用い被験者2人に対しての実験を行った。強さが10dBの透かしを埋め込んだもの、mp3のビットレートが96kbpsのものにおいては、楽曲の音質が劣化したと感じやすく、強さが0dBの透かしを埋め込んだもの、mp3のビットレートが128kbpsのものにおいては、音質の劣化はほとんど検知することができないということがわかった。
なかでも、ビットレートが96kbpsの楽曲に対して、被験者はもっとも音質が劣化して聴こえると感じていることがわかった。10dBの強さの透かしを埋め込んだ楽曲は、ビットレート96kbpsの楽曲よりも劣化して聴こえないという結果となった。