情報大ステーション2004 第15回『小湊鉄道で水と彫刻の丘を訪ねて〜小湊鉄道・水と彫刻の丘美術館〜』(2004年10月8日放映)の制作 [東京情報大学] [情報文化学科] [平成17年度卒業研究概要集] [平成17年度ゼミのリスト] [ゼミ学生一覧]
伊藤 敏朗 ゼミ 平成17年度卒業論文
情報大ステーション2004 第15回『小湊鉄道で水と彫刻の丘を訪ねて〜小湊鉄道・水と彫刻の丘美術館〜』(2004年10月8日放映)の制作
佐藤 康弘

この作品は、高校生レポーターが夏休みの1日、小湊鉄道に乗って、「水と彫刻の丘美術館」を訪問した模様を紹介したものである。高校生が素朴な鉄道沿線の風景や人々の温かさに触れ、養老渓谷にも足を伸ばして、千葉の文化と自然を満喫するという番組になっている。

小湊鐵道はJR内房線の五井駅から、同鉄道の終点である上総中野までの39.1キロを結ぶ、忘れかけていた時代の香りが漂うローカル鉄道である。また、「水と彫刻の丘美術館」は、高滝ダムによってできた人工湖(高滝湖)の湖畔に建設された、現代彫刻を中心とする美術館である。

映像レポートでは、五井駅で、高校生レポーター2名が自己紹介をしてから小湊鉄道に乗り込む。沿線風景を紹介し、駅員に手を振り、カメラに息を吹きかけて遊ぶなど、楽しい旅の雰囲気を伝える。高滝駅で途中下車して、「水と彫刻の丘美術館」に向かい、ここで多くの展示品に手を触れながら内部を歩く。同館の常設展示室は、展示作品に手で触れることができるという公立では初の試みを実施していることが紹介される。高校生はイベントコーナーで手作りペンダントの制作にも挑戦する。つぎに屋外の展示物を紹介し、展望台を兼ねた「藤原式揚水機」に登る。さらにボートに乗ってダム湖上に設置されている水上彫刻を鑑賞する。再び小湊鉄道に乗り込み、養老渓谷駅で降りて、渓谷の散策コースを歩いて、「栗又の滝」では水遊びをする。最後にスタジオで、高校生レポーターが「ローカルな雰囲気の鉄道に乗って、景色をゆっくりと見ることができたり、人の温かさに触れて、すてきな夏休みの一日を過ごすことができた。」とまとめる。

この作品では、小湊鉄道や、「水と彫刻の丘美術館」を紹介するとともに、房総の小さな旅の楽しさについて描きたいと思った。ローカル線の風景を楽しみ、美術作品に触れ、滝で遊ぶ高校生たちには特別な演出を加える必要はなく、彼女たちはそれぞれのポイントで的確に反応し、会話の掛け合いも面白く、作品を生き生きとしたものにしてくれた。

このように、高校生の夏休みの1日を描いた旅番組風の小品であるが、撮影には技巧が凝らされている。実際の撮影では、高校生が出演した取材日と、沿線風景や列車の走行風景を取材した日は別の日であった。列車の走行風景の取材では、ゼミ生全員を沿線の各ポイントに配置して、それぞれの場所で撮影した映像を編集でまとめ、高校生の取材日の映像ともあわせて夏休みの1日の出来事のように見せている。また、高校生の登場する場面でも、完成した番組では、彼女たちが高滝駅で途中下車して美術館へ徒歩で尋ねたように構成されているが、実際はすぐに列車に乗り直して、まず養老渓谷駅へと向かった。番組ではラストシーンとなっている養老渓谷の場面を先に取材を済ませてから、後で美術館を訪ねたのである。ボートに乗って作品鑑賞をする場面では、高校生と大学生スタッフが2艘のボートに乗り込み、お互いに水上で追いかけながら撮影し、さらに携帯電話で陸上のカメラとも交信して2艘のボートの位置を調整しながら撮影するという苦労をしている。このように、完成した番組の印象よりは、かなり大がかりな取材を敢行した番組だったと言えるのではないだろうか。

なお、列車の走行シーンでは、下り列車のカットが必要であったのだが、上り列車の映像しか撮影できなかったため、編集でこの上り列車の映像を逆再生して下り列車のように見せているところもある。そのために、映像をよく見るとディーゼル車が排気ガスを吸い込みながら走っている。

この作品の評価については、「高校生が元気いっぱいでよかった」、「列車の映像の迫力があった」、「番組で紹介したとおりに行ってみたい」などの感想が多かった。レポーターや司会者の上達をほめる意見も数多くあり、この頃の放送となると、経験値が上がっていることが感じられた。

この作品の制作を通じて、番組を視聴者に見せるということの大切さを考えさせられた。当初は、列車の映像の逆再生や途中駅での降りたふりの演技など、視聴者に虚偽を働いているようで躊躇があったが、出来上がった番組を見ると、こうした編集の結果によって、全体としての行程がよくわかり、スムースな物語性をもった番組となっており、完成度が高まっていると感じた。このような技巧や技法の採用は番組としての見やすさを考えれば必然的なもので、視聴者にとっても必要なことだったと思う。自分自身が番組を作ることによって、「みせる大切さと面白さ」を知ることができ、勉強になった。