今日、インターネットやデジタル放送の普及に伴って、私たちはデジタルコンテンツを様々な形で楽しむことができるようになった。しかし、違法という形で楽しまれている事も事実であり、それが今問題となっている。そこで、この問題を解決するための切り札として注目を浴びているのが、「電子透かし」という技術である。
「電子透かし」とは、人に知覚されにくい信号をデジタルコンテンツに埋め込む技術の事で、この技術によって著作物を違法行為から守ることができる。しかし、この技術には透かしの耐性とコンテンツの質は相反するという特徴があり、実用する際には耐性と質のバランスに注意しなければならない。
例えば、音楽信号に電子透かしを挿入した場合の透かしの耐性とは、MP3などに変換しても挿入したデータが取り出しやすいかどうかといった事であり、透かしを強くすると、耐性が良くなる。しかし、耐性を良くすればするほど、音質の劣化が激しくなり、人に透かしが挿入されている事を検知されてしまう。逆に人に検知されない音質にする為、耐性を弱くするとデータが取り出しにくくなってしまう。世に透かし挿入音楽を出す為には音質の劣化を人に気づかれず、なおかつデータが取り出しやすいものにしなければならないのである。そのような電子透かしをつくる為には、まず、人の音質劣化を聴き取る能力について理解を深める必要がある。そこで、本研究で人の『透かし挿入音楽を聴き取る能力』の変化を明らかにし、技術の発展へ貢献していく。
本研究では2つの実験を行い、『透かし挿入音楽を聴き取る能力』訓練によってその能力は向上していくのか、また、日を空けて同じ実験した場合のどのような変化があるのかを調べた。
実験を行った結果、訓練によって人の『透かし挿入音楽を聴き取る能力』は向上し、およそ5時間20分程度で向上の限界に達した。また、4〜6ヶ月空けても衰えにくいものであることが明らかになった。そして、楽曲の違いによって、「向上するもの」と「向上しないもの」があり、また「衰えにくいもの」と「衰えてしまうもの」があった。楽曲によって能力変化は左右されるのである。
この研究での実験被験者は3人と非常に少なく、今後は結果の信頼性を高める為に、もっと多くの被験者に実験を行ってもらう必要がある。