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高津 直己 ゼミ 平成15年度卒業論文
物語における未開拓領域の開墾
長島 真

私が4年間を通して唯一続けたのは「面白いことを考える」ということだったではないだろうか。ではその総まとめとして誰も作り得なかった物語を作ることにしようというのが本研究の始まりだった。結論から言えば、開墾は成功にたどり着いたかに思えた。しかしながら、思いがけず運命という名の大いなる力によってスタート地点へと送り返されてしまった。この論文はそのプロセスを追ったものでもある。

本論文を結果的にメタな領域へと押し上げたのはアメリカ映画『アイデンティティー(2003)』だった。この映画は、誰も作り得なかった物語の解決策として私が構想していた脚本とまったく酷似していたのである。詳しくは映画を観ていただければお分かりいただけると思うので省略するが、このことは本論文を執筆する過程で皮肉な事件となって私を苦しめ続けた。それは10月半ばのことであった。その後、迫り来る提出期限の中で苦肉の策として「入れ子構造」、「モキュメンタリー」という手法を知り、これについて言及し、自分なりのアレンジを加えることにした。本論文の中では、このアレンジしたものによって未開拓の物語を開墾したと述べたが、実のところ満足はしていない。

本来、物語における未開拓領域の開墾とは雲を掴むようなものだ。しかしながら『アイデンティティー』というサスペンス映画が巷でかなりの評価を得ていること、そしてそれと同じアイデアを私自身が捻り出すことになまじ成功していただけに倍増する悔しさ。この辛酸を舐めた経験で、掴めない雲と知りつつも、「未開拓領域の開墾」はすでに私の中で生涯追い求めていくテーマとなってしまった。

見ることは出来ないが捕まえることは出来る最先端のアイデアを探すとしよう。つまりは開墾というより冒険である。

「事実は小説より奇なり」とはよく言ったものだが、私のこの一年は、偶然にも巨匠作家が書いた、誰にも作りえない奇跡の未開拓物語そのものだったのではないだろうかと今になって思う。