本論文は、1990年代に急速に世界的脚光を浴びたアニメやコンピューターゲームといった、オタクカルチャーをめぐる動向について考察したものである。第一章では、90年代に至るまでのオタクの誕生とその後の動向を探った。オタクの誕生には学生運動が衰退した後の、テレビ世代特有の喪失感が深くかかわっており、彼らは子供のころ見た世界、すなわちアニメなどに深い関心を持つようになり、好きなものへの情熱から70年代と80年代に二度にわたるアニメブームを起こした。一方で、80年代、急速に個人向け電子メディアが普及するようになると、オタクは共同体としてのまとまりを失った。第二章では、80年代のブーム解体の中で露わとなった、オタクの二次元美少女に対する執着をキーワードに、90年代最大のオタク文化的事件となったアニメ「エヴァンゲリオン」を中心に、オタクたちの新しい極相となった「萌え」といわれる二次元美少女に対する性愛意識について述べた。「エヴァンゲリオン」が問いかけた、二次元概念と自己との関りを巡る自問自答は、二次元美少女と自己を巡る慟哭へと変質し、やがて「感動系」といわれる新しい恋愛シミュレーションゲームのジャンルが生まれ、オタクカルチャーの最前線となる過程を論述した。第三章では、そうした情報化の中で暗闘するオタク達の背景を探った。情報化の進展で戦後社会体制が急速に崩壊し、相対化主義が急速に波及する中で、オタクは共有する価値教養を見失い、自己至上主義が蔓延る中で逆に自分を見失いがちとなり、自意識過剰へと傾いていった。それは、情報化の恩恵を受けつつも、同時に戸惑う、日本人全体に関係する姿である。今改めて問われているのは、オタク的なリテラシー能力の復活であり、それは相対化に左右されない共有するモラルの創造であると考えられる。