本論は、日本と韓国のドメスティック・バイオレンス(以下DVと略記)を比較し、韓国、さらにはDV対策の先進国とされているアメリカの例をいかに日本に活用するか、を考察したものである。まず、日本のDVの現状を検証し、DVが日本人のジェンダー意識の強さと関連していることを指摘した。「家制度」からできた家父長制や高度経済成長期以降の企業社会が、家庭責任を負わない者として男性の長時間労働を一般化し、性役割分業を促進したことで、DVが行われる下地を作ったのである。DVの現状分析をふまえると、DV法がDVの現状や特殊性に伴っておらず十分でない点や、被害者支援施設の不足などの問題点を指摘できる。このような日本の状況と比較するため、次に韓国のDVの現状を検証した。韓国も儒教の影響によりジェンダー意識や家父長制が成立したが、1960年代以降、家庭と公的領域が区分された資本主義的社会構造に変わり、外で働く男性が社会的・経済的な優位性を持つようになり、男性至上主義的家族がつくられたことを明らかにしている。日韓両国とも広義の儒教文化圏であり、家父長制が社会経済に浸透していることから、DVの要因が「男らしさ」という意識に基づく支配行為である点が共通している。最後に、DVへの対策が進んでいるとされるアメリカで行われているDVへの対策を紹介するとともに、日本では韓国とアメリカのDV対策のどのような点を活用できるか検討した。韓国では職業訓練機能を備えた施設や妊婦用のシェルターが設置され、所定の教育を受けたDV相談員やDV専門の警察官や検察官が配置されるなど、被害者に配慮した多様な形態の支援が行われている。また、アメリカのDV対策からも、加害者更正プログラムや子どもに対する対策、「DVフリーゾーン」という市民全員が行うDVをなくすための取り組みなど、日本が参考にすべき点は多いと考える。