本論は、鯨に対する認識の違いから20年以上に亘って続いている捕鯨国と反捕鯨国の間の議論を取り上げ、国際摩擦とはどのようなものであり、どのような過程を経て生じるかを検証するものである。捕鯨をめぐる対立は、国益や商業的利益の他、民族による考え方の違いや鯨との付き合い方の違いから生じている場合もある。そこでまず、宗教や神話、民話の中で鯨がどのように扱われてきたかを調べた。次に、日本やヨーロッパ諸国が歩んできた捕鯨史についても取り上げた。捕鯨国が捕鯨を続けようとする根拠を検証し、かつては現在の捕鯨国以上に捕鯨を行っていた反捕鯨国が捕鯨を止めるに至る過程を追った。本論執筆にあたって調査した文献に依拠して捕鯨国と反捕鯨国の主張を比較する限り、両者の対立は今後も続いていくと思われる。しかしながら、同時に、人口増加による食糧問題や海洋環境の変化によって、今後20年以内には対立に新たな変化が出てくることも予想される。