本論は、現代映画に見られる枠組みの曖昧化について、1990年代の日本映画の検討を通じて考察したものである。まず、90年代に至るまでの日本映画の変容の流れを明らかにするため、80年代以降に登場した映画監督たちに着目した。彼らの多くは、大手映画会社が力を失っていく状況の中で、個人的に映画を撮り始めたのを出発点に映画監督になった。彼らが本格的に活躍し始めるのは90年代からで、衰弱しきった日本の映画産業の中、Vシネマやピンク映画という過酷な製作現場で修行を積みながら、実験的な作品を次々と発表して話題を呼ぶようになっていった。また、彼らの作品は海外でも高い評価を受けるようになり、90年代後半には各国の映画祭で日本映画の受賞ラッシュが起きた。その背景には、日本映画が「日本」という枠組みを曖昧にしたところで海外の人々に評価されるようになってきたという状況がある。さらには、世界全体においても映画における国境の曖昧化は進んでおり、より映画をその作品の本質で評価する時代が訪れたと考えられるのである。