本研究では、「その時の気分に同調した音楽を聴くことこそが感情に変化をもたらす」という原理に基づき音楽療法の分野において、実際に現場で行われてる、「同質の原理」に着目し、特定の感情状態にある場合の聴取行動について検討を行った。ここで言う、特定の感情とは「寂しい、悲しい」といったマイナス感情状態を指す。本研究では、この特定の感情状態を作り出すために映像作品を使用して映像操作によって感情が「寂しい、悲しい」という状態を生み出そうとした。この状態においての聴取行動に「同質の原理」が働くかどうかを検証すると共に、被験者が、聴きたいと思う音楽が、その時の感情状態と同調した音楽であるのかどうかを検証することを目的とした。
実験は、10名の被験者に感情を悲しくさせるであろうと考えられる、映像作品を鑑賞してもらい、映像を見た後の感情を9つの感情表現語を用いてその度合いを選択させた。その後、5曲の著者が選曲した楽曲を流し、その5曲から聴きたいと思った曲を選曲させた。選曲の理由については、著者が提示した理由項目より選択させた。なお、選択肢に理由がない場合はその他に理由を自由に記入してもらうこととした。
分析においては、それぞれの感情の度合いに応じた点数を割り当てた。本研究では、強く思う時には少ない点数、まったく思わない時には大きな点数とした。それを元に主成分分析を行い、被験者ごとの感情に対する因子負荷量を表すために、感情表現語を使用して3つの因子にまとめた。3つの因子は、軽快因子、憂鬱因子、侘びしい因子とした。その後、被験者ごとの因子負荷量と聴きたいと思った理由との相関係数を取ることで、各因子と選曲理由の関係について分析した。これらの結果、特定の感情状態にある時、感情に同調した選曲理由を選んだという結果は一部では見られたものの、全体的に見れば回答にばらつきがあるので個人差があると思われた。